厚いコートを脱いで - 2006年11月13日(月) 数えてみたら、22回。両親の家を出てから引っ越した回数。今度が23回目だよ。 引っ越しのアドバイスが超コマカクてコウルサイからそう言ってやったら、ジェイソンなんか16のとき家出てから50回以上引っ越してんだって。 引っ越しは、わたしにとって人生の階段。ひとつ上ったらそこからずうーっと平たんが続いたりもするヘンな階段だけど。一段上るたびに冬から春に変わって厚いコート脱ぐみたいに軽くなって、「夢と希望」でウキウキ・メラメラになる。そう、春はいつも「夢と希望」に胸ふくらむ。少しの不安と一緒に。 4年以上もこのお家に住んで、22段の階段の中でこれが一番長い平たんだった。でも今度の階段上ったら、もしかするとそれ以上平たんが続くかもしれない。そして今度の一段は今までよりうんと高い一段のような気がする。日本からあの街に引っ越したときよりも、あの街からこの国に引っ越したときよりも。それくらい、なんかすっごい「人生の転換期」感じてる。なんてわかんないけどね、先のことは。 新しいアパートの窓は通りに面してて、どの窓も街路樹を素敵にフレームしてる。このあいだ荷物を運んだ夜、外の玄関の階段を上ったときにメープルシロップの匂いがした。それまで気が付かなかった。家の前に立ってるのがカナディアン・メープルの木だってことに。「ねえ、メープルの匂いがするでしょ? これ、カナディアン・メープルだよ。ほら、カナダの国旗になってるやつ。あの街じゃね、この木が通りを覆ってるの」。真夜中だから、思わずあげそうになった大声必死でおさえた。ジェイソンが「へえ」って一緒にカナディアン・メープル見上げて言った。あの街のことを話すとき、いまだに声が弾む。それでも、どんなにあの街が懐かしくても、どんなにあの街がわたしの誇りでも、わたしは確かにあれからも階段を上って来た。 カナディアン・メープルはもう半分以上葉っぱを落としてもう冬がそこまで来てるけど、わたしはあさって、冬から春を迎えるみたいに厚いコートを脱いで、ちょっとだけ不安を抱えながらまたひとつ階段を上るんだ。 - the new chapter - 2006年11月11日(土) 聞いて。 来週引っ越すの。 スパニッシュ・ハーレムに。 ブラウンストーンのタウンハウスの3階なんだ。 ハードウッドフロアでハイシーリングでファイヤーエスケープがついてるの。 階段なんかすっごい急で狭くてぎしぎし軋むし、ホールウェイはニューヨークの古ーいアパートによくあるあの黒と白のチェッカーのタイル張りで、わたしは好きだけどジェニーなんか絶対ごっくんて唾飲み込む。 すごいなあ。どれくらいぶりに日記書くんだろ。荷造りまだまだたくさんあって、日記書いてる場合じゃないんだけど。 スパニッシュ・ハーレムに引っ越したいって思ってから一年以上経った。やっと見つけたお気に入りのアパート。クローゼットがひとつしかないんだけど、ジェイソンがね、クローゼット作ってくれるの。キッチンのキャビネットとかカウンタートップとかも。「素敵になるよ」だって。引っ越し手伝ってくれてるんだ。もう4往復車で荷物運び込んだ。今日けんかしちゃったけど。だってわたしのベッドサイドテーブルとかコーヒーテーブルとかキッチンテーブルとかヴァニティ、みんなブッサイクだから捨ててけって言うんだもん。ブッサイクだよ、確かに。だけど、6年前あの街から引っ越してきたとき、あのホテルの人たちがくれたやつで愛着いっぱいなんだから。 でもわたし、言うこと聞いて捨ててくんだろな。 「きみの人生の新しい章の始まりなんだよ。古いもの捨てて、みんな新しくしようよ」。 ジェイソンが口癖みたいにそう言うのが、なんかすごいわたしのパワーになってるから。 じゃあ戻るね。荷造りに。 -
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