一平さんの隠し味
尼崎の「グリル一平」のマスターが、カウンター越しに語ります。
目 次|過 去|未 来
その39 そんな、ある日、私が配達から帰って来たら、店の中からウエイトレスさん
が、外にいる私の近くに来てビックリした顔をして、
「何か凄い腕の大きい人らが着てるよ!カウンターいっぱい!」
ははあーん!私は、ピーンときた!
「やっぱり来ましたね!あ!大将は?」
「赤い焼きそばや、汁、なんて言ってたのが、恥ずかしくなったみたいや」 「ははは、もう!遅いちゅーねん、なあー」
カウンターいっぱいに座った逆三角形の人達は、みんなで大笑いしてた。
カウンターの中から注文をたずねると、みんな声をそろえて・・・。
「すみません!赤い焼きそばを、お願いします!」・・・・(うまい!笑)
それを聞いてたウエイトレスさんが、
「あなた達は、あの、オバQさんの、お連れさんですね!」・・(オバQ?)
筋肉マンの人達が笑い渦になったのは、オバQの名前のセイ!!
またこの次
その38
大将の話しは続きます・・・
「金があるときは、赤い焼きそばに、汁を付けてもらうんや!」・・・・(ん!・・・汁?)
後ろから、また筋肉マンが・・・
「汁って?なんですの?」
大将が後ろの連中をバカにしたように、
「おまえらは、こんなええもんをしらんやろ!これがまた美味いんや!」
「ちょっと、あかぬけた、じょうひんな味や!おまえらには合わへん!」
筋肉マンが手に持っていたダンベルを置いて、むっ、とした顔をして、
「それって、胡椒とか小さいパンの揚げたのが浮いてるやつですか・・・?」
「大将!それね・・・スープって言いますねん!汁って何んですの?」
大将!おおきな声で!
「汁や!しるや!アホか!焼きそばに汁や!なに言うとんねん・・・」・・・・・(こわ!)
うしろの全員が大将を囲むように・・・、
「いつもカウンターで、そうやって注文してはるんですか?」
大将は鼻息が荒くなり、大きな頭を左右に振りながら奥のカーテンの中に消えていった。
筋肉マンたちが小さい声で・・・、
「汁やて!ううううう、腹がさけそうや!その店、行ってみよーや!」
またこの次
その37
大将が私に、手にカップラーメンを持ったまま、
「学生か?」・・・・・・・(口の中にはラーメンがいっぱい!(笑)
「いいえ、働いてます。」
「どこで?」
「あのーグリル一平と、言う店なんですけど。」
「知ってるで!あの赤い焼きそばが美味しいとこやな!」・・・・・(なぬ?赤い焼きそば)
後ろの方から、鏡の前でポーズをとってる逆三角形の兄さんが、
「大将!それって玉子の入ってるヤツでしょ、それも言うなら、スパゲティーと、ちゃいますか!」・・・・・・・(大将の前やから笑えなかったけど、これは可笑しかった)
大将が振り向いて、「何がスパゲティーや!あほ!店に行ったら、赤い焼きソバって言うたら作ってくれるがな!」・・・・・・・(えええ!ほんまかいな!)
初対面で感じたことは、ここなら続けられそう、と思った・・・・。
その36
そのジムは、国道43号線沿いに建っていました。
公害日本一の尼崎!排気ガスをもろに受けてた、ボディービル・ジム!
43号線沿いに住友工場が立ち並び、その煙が、モクモク・モクモク・息が出来ない。 その工場で働いてる若い男達が仕事帰りによって、汗を流してリフレッシュして
家路に着くわけで、私も、高校時代にラグビーやって、まだ二・三年しか、
経ってない頃、まだまだ走りたい年頃でした、今でこそスポーツクラブとか気軽に行けますが、当時はそんな気の利いた所はなく、どこかスポーツ出来る所を捜してたら、偶然 、ここのジムを見つけたんです。国道沿いの排気ガスの中にそのジムはありました。
ジムの入り口に大きな古い引き戸があって横に引いいてもレールから外れてるのか、 なかなか一度では開かず、力任せに開けないと必ず途中で一回止まるんです、
戸を開けて中に入ると、うなぎの寝床みたいに縦に細長いジムで、壁には大きな
鏡が三枚ほど並んでおり、その鏡の前には、筋肉モリモリの男たちが僕の方を 見ていた、一人が近づいてきて「入会ですか?」僕が「ハイ」って言うと、
「ちょっと、待ってくださいね」と、カーテンで仕切られてる奥の方へ歩きながら・・・。
「大将!大将!」・・・すると奥のカーテンの中から片手にカップラーメンを持って、 出てきたんです、初対面で感じたこと、とにかく頭がデカイ!そして・・・背が低い!
またこの次
その35
「親分に、いろいろご心配お掛けしました、って、」言っといてくれないか。
女将さんの、Gパン姿はその時、初めてで、私の顔をみて・・・。
「しっかり修行して、この人のように、立派なコックさんになってね!」
今でも不思議なのは、あの時、私は「ハイ!」と、言ったような気がする。
尊敬するチーフが、この人の為に居なくなると、思ってたはず、なのに・・・。
「この人のように・・・」と、言った言葉に、私は共感したに違いありません。
早朝の静まりかえった飲み屋街の中を、駅の方へ向かって二人は歩き始めました。
女将さんを見るチーフの横顔が、グリル一平で働いてる時のあの、さわやかな横顔
でした。二人の後姿を見てたら・・・もし、あの車海老のフライが跳ねなかったら・・・
もし、女将さんのカウンターに座る場所が違ってたら・・・と、いろいろ考えました。
そうそうに皿を下げて店に帰る途中・・・。何度も・・・。
「チーフ、がんばれ!チーフ、頑張れ!いろいろ教えてもらい有難うございました。」
また・・・この次・・・!
その34
チーフが黙って下を見ていた・・・すると、女将さんが喋りだした。
「私はこの人と、所帯をもつ、つもりです、親分が心配するようなことは決して・・・。」
オルテガさんがカウンターから身を乗り出して二人に、
「あんたらが所帯を持とうが夫婦になろうが、しったこっちゃないんだよ!」
「尼崎で商売する気なら、ちゃんと筋道を通さなきゃいけねってことだよ!」
「チーフ!わかるだろう・・・あんたも一人で一人前のチーフになったんじゃねーだろ!」
「うぬぼれるんじゃないよ!どんな名医だって患者がいるからだろ!」
「どんな腕のいい職人でも、お客さんが来てくれるからだろ!店があるからだろ!」
「料理の事はわからんが、感謝のない料理は、そんな店は、長続きしねえよ!」
オルテガさんは、カウンターにポンと、お金を置いて、そのまま店を出ていった・・・。
翌朝・・・私がいつものように、器をさげに回ってたら、ちょうど昨夜の、女将さんの
店に来たとき、ガラガラと店の戸が開いた、チーフと女将さんが出てきた・・・。
二人は、手に大きなバッグを持って、どこかに行くみたいだった・・・。
チーフが私を見つけ、呼び止めた、
「お願いがあるんだけど・・・」
またこの次
その33
オルテガさんは私に聞きたいことがあったみたいで・・・
「あの、チーフ、店をやめたらしいな、そして何処いったんや?」
私は、言いたくなかったんですが、あの顔でにらまれると・・・
「たぶん、あの料理屋の女将さんの所だと思いますけど・・」
すると、オルテガさんは、すぐに・・・
「わかった!今から、その料理屋でも覗いてこようか・・・」
正直、私はイヤナ予感がした。
配達もそこそこに、帰りに料理屋の方に回ってみた。
もうそこのは、たくさんの人だかりが出来ていた・・・入り口が開いていた。
オルテガさんが、カウンターの真ん中に座って女将さんと、その横にチーフがいた。
「なあー女将!商売ってもんは、自分だけよければいいってもんじゃないやろ!」
「よその店の一番手を手玉にとって、引っこ抜いて来て!どないやねん!」
「チーフ・・・ええのんか?この店で・・・ええのんか?」
また・・・次の日
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