やっぱ思った通り・・アレだったから・・休暇願い出そうと思っていたのだ。(笑) でも晩酌ハッポーしてたら、いきなり元気が出て来てしまったのだ。
今夜は秋刀魚を焼いたのさ。脂がのってて美味しかったよ〜 でもね・・大根おろしてる間に焦げちまったのさ・・。
「お願い・・誰か秋刀魚見てて・・」と台所で泣き崩れていたのに、誰も助けてくれないのだ。 うちの男なんて大嫌いだ!私を居酒屋の女将だと思っているに違いないのだ!
「あんね・・そんなこと言ってたら一人で店なんか出来ないぜ!」なんて言うのだ・・。 「あっ!女将!ビールもう一本ね!」そんなこと言って感嘆符が多すぎるよ・・君たち。
女将は泣きながら大根をおろす。 焦げた秋刀魚をお皿に並べ、絶望と嘆きのはざ間で心がはちきれそうになる。
そして女将はじゃがいもを薄くスライスした。ジャーマンポテトが食べたかったのだ。 心はすでにバターの香り。甘く溶ける玉ねぎの気持ち。嘆きの果てに見える希望の光。
しかし、「女将・・もうそれいいよ!キャンセル!」若い方の男が偉そうに言うのだ。 「そ、そんなこと言わないで・・すぐ出来ますから待って下さい・・」 女将は目に涙をいっぱい溜めて懇願するのであるが、その若い男は・・完全無視したのである。 女将のこころは深く傷つき・・手元のハッポーをぐいと飲み干し、 我が身の不甲斐なさを噛み締めるのであった。
そ、その時である。突然年老いた男の携帯がテーブルの隅でブルブルと震え出した。 「あっ・・これお客さんの携帯ですね?」女将はすばやくそれを手にする。
まりまりまりまりまり・・その携帯のディスプレイに「まり」が居た!!!
ああ・・多分次に行く店の女ね・・女将は寛大に微笑むのであるが、 男は異常に慌てふためいているのだ。 そして奪い取るようにそれを握り締めるやいなや、店を飛び出し表に走ってしまったのだ。
「おやっさんもやりますなあ・・・」若い男が不気味に含み笑いをする。 「あらま・・意外とモテるんですね〜あの方・・」女将は興味津々で聞き耳を立てる。
ゆっくりお話しすれば良いのに、男はすぐに電話を切ると気まずそうに帰って来た。 そして訊きもしないのにあ〜だらこ〜だら「まり」について語るのである。
「まり」は最近日本に来たばかりで、まだ日本語がよく話せないそうである。 とても人懐っこくて可愛い女の娘だそうだ。
「きっと家族と離れて寂しいのよ・・お友達になってあげなさいよ!」 女将は真面目にそう告げるのであるが、男はかぶりを振りながらふと・・目を逸らすのである。
焦げた秋刀魚も意外と美味であった。女将はいつまでも帰ろうとしない男達のために・・ 明日も明後日も心を込めて・・美味しい料理を作りたいなと思っていた。
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