もう一度






彼がさよならを言うために来た。
彼が私を苦しめて、私が彼を追い込んだから。

メールや電話で何度頼んでも聞き入れてもらえなかった。
彼を迎えに行き、改札で待った。
彼が来たら微笑んで、彼と並んだら手を繋ごう。
たとえ彼が暗い顔で、手を差し伸べてくれなくても。

私にとって、どれだけ彼の存在が大きいのか
こんなふうになるまでわかろうとしなかった。
彼に疲れたと言われたのは2度目。

同じ事を繰り返さないと決めたのに、私はまた彼を苦しめた。

彼のいない人生は考えられない。
耐えられない。

話をしようと言う彼に頼み込み、ヴーヴクリコのデミセクと
ルタオのショコラドゥーブルに、アンテノールのロールケーキを買う。
4日遅れのヴァレンタインだから。

部屋に入ると、彼が私を抱き締め、キスしてくれた。
貪るように、少しでも離れたら消えてしまいそう。
だから、私は彼の身体に廻した手をほどけなかった。


二度とひどいことは言わない。
彼を失いたくない。
彼が望むならなんでもする、どこへでも行く。
欲しいのは彼だけ。

何度も何度も繰り返した。
滅多に口にしない言葉。
愛してる、愛してる、愛してる。

彼を失ってしまうなら、今の10倍の苦しみにも耐えられる。
彼の髪を洗い、彼の横で眠りに落ちた顔を見る。

帰りに彼がお揃いの置時計を買ってくれた。
文庫本も2冊、一緒にレジに。

もう一度、始めてくださいとお願いして、彼は許してくれた。
私の顔を見た瞬間に、昨日までの決意はなくなったと彼は言った。
だけど、私は彼が許してくれるまで、何度もお願いした。

いつまでも待ちます。
失うくらいなら、いつまでも待ちたい。
ここが遠いなら、彼のそばに行きます。
何もかも捨てていい。
彼がいてくれるなら、他に何もいらない。

2006年02月18日(土)

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