南の窓から、磨りガラスになっている窓から、部屋の中に伝ってくるあたたかさの中に足を投げ出す。 せっかく焼いたトーストは、二口食べてから、のどを通っていかないことに気付いて、 きっと飲み物がないからだと思ったので、お湯を沸かしてインスタントスープを溶かしてみたけれど やはりそれでもパンはのどを通らなかった。一口分にちぎったパンをポタージュスープの中に浸してみると それはお麩よりもだらしなくふやけた。 結局スープだけを飲んで、パンは今は食べないことにして本の続きを、読み切ることにした。 本を読み終えると、窓からの明るさは弱まっていて、照ってるうちにふとんを干しておけばよかったと思った。 きのこがふとんに生える話を思い出していた。
7歳まで住んでいたアメリカの家の庭に生えたきのこのことや 芝生に落ちる自分の影の輪郭がとたんに曖昧になっては、またくっきりし、 時折もはや薄くなりすぎた影と影じゃない部分の境界線がなくなるのを見ていたことが 24歳の中野のアパートに繋がっているように思われた。繋がっていることに気がついた。
飛行機で飛び越えた7歳のときの境界線は 単に住む場所、空間を隔てたことで私に境界線たらしめていたけれど 日付変更線や赤道が実際の地球にはひかれてはいないようなものなんじゃないかと思った。
『わたしたちに許された特別な時間の終わり』岡田利規/新潮社 読了
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