限定鼓動

2004年11月08日(月) 四十九日

四十九日の間ずっと、母親の夢を見続けていた。
何度眠っても、どんなに疲れ果てて眠りに落ちても
必ず母が夢の中に居た。
病室に居た姿では無く、普段通りの何一つ変わらない姿で。

けれど一つだけ、夢を夢と気付けはしなくても
夢の中ですら、判っていたことがある。
『母親は死ぬ』ということだ。
どんなに明るい、笑っている姿の母を見ていても
夢だと気付けている訳でもないのに
『どうして死ぬんだろう』『せめて死ぬ前に』『もしかしたら助かる』
そんなことばかりを、考えているのだ。
もうほとんど無意識に。
死んでしまうことを知っているのだ。夢の中の世界では。

どうして夢の中でくらい、助けてくれないの。
1回くらい、喜ばせてよ。
それが覚めた時、どんなに残酷なことか自分がいちばんよく判るけど。

また母さんの夢を見た。
何ら変わり無い、いつもの実家のリビングだった。
その中で母は既に死んでいて、それを夢の中の私も理解していて
けれどそのままの姿で会いに来てくれている、という状況だった。
10年前に死んだ、母がいちばん慕った曾祖母と伴に。
先に行ってるからね、と部屋のドアから出て行く曾祖母を見送って
私は母親に向かって云った。
『こんなに会いに来てくれるんなら、もう死んでしもたんでもいいや』
会いに来れる、たとえ死んでいても母親に会えるなら。
これだけ自由に行き来できるこの世とあの世なら
“死んだ”という事実があっても、もう構わないと思った。
すると母は、困ったように笑って云った。

『もう四十九日経ったからね…そう会いには来れんよ。』

心臓がひとつ、大きな鼓動を立てて眼が覚めた。
49回目の母の夢。
四十九日の朝だった。


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陽 [MAIL]