小さな命の傍で 自分の死について考える。 そんなことを呆然と思ってるあたしは、何処か壊れてるんだろう。
高校の時、登校拒否になりかけた。 そのときにうちにきたのが、今5歳になるこのミニチュアダックスだ。 どうすればいいのか、誰もわからなかった。 精神の不調が身体の不調を呼び起こして 続く微熱、嘔吐、頭痛、学校の存在自体が苦しくて仕方なくなっていた。 勉強はもともと嫌いじゃない。 じゃぁ何で、学校を嫌うか。 あの集団の中で、自分が異質であることをありありと感じてしまうからだ。 それを誤魔化しながら、普通であることに違和感が生じ その違和感はやがて苦痛に変わった。 どうしたら学校へ行けるのか、あたしにはわからなかった。 我慢して押し殺すしか、方法が無かった。 家族にもわからなかった。 優等生できて部活なんかも活動的にこなしてたあたしが、 なぜ急にこうなったのか。 誰もどうすることもできなかった。 皆が道を探ってた。 退学の相談もした。けれどあたしなりのプライドがあった。 行きたかった高校だった。 あたしがもとから行かなければ、受かってた子が存在するんだ。 そうやって必死に云い聞かせていた。 そんな時、母が云った。 犬でもいれば、気持ちが和むんじゃないか、と。 生き物を飼うことに賛成でなかった祖母も、それなら、と 了承してくれた。 欠席や早退続きの日々、早退してきた日 母は、‘アンタのためなら何でもするのに’と泣いた。 泣かせた後悔と、それでも苦しさに負けて、どうしようもなかった。 その日のうちに、犬探しが始まった。 何件も巡って、ブリーダーにも問い合わせて そんな中、辿りついたペットショップ。 一際小さく、一際元気な子犬がいた。 眼が合った瞬間、この子しか他探してもいない、なんて直感だった。 あたしを助けるために、この子は来た。 あたしはそれから1度も学校を休まなかった。 それがこっちの勝手で連れてこられたこの子に対する約束だと思った。
それから5年。 5人一緒にいた家族は皆、ばらばらになった。 寂しい思いは年々と増えただろう。 賑やかだった家族の面影を探すように、 実家へ入った途端、すべての部屋を巡る。 父の影を母の影を、おじの影を探すように。 それでもいないことくらいはわかっているみたいで、 それが余計に切なくさせる。
あたしが祖母の方の実家に戻ると、飛び上がって抱っこをせがむ。 この行動はあたしにしかしない。 あたしはこの子と約束したのに。 一生懸命生きること。 この子の一生を見届けること。
今また新しい命がすぐ傍に来た。 まだ何もわからないまま母親から離された子犬は、あたしの掌でじゃれる。 夜だって真っ暗な闇の中、誰か呼ぶように泣く。 精神が病む暇がない程、忙しい。 子育ての準備になるよ、なんて笑って相方は 仕事があるのに毎日の寝不足にも何の文句も云わない。 あたしは、懸命に生きたい。 死にたいけど あたしは生きたい。
生きられなかった人を何度も見た。 小さな小さな命が消えた日も覚えてる。 実習での医療の現実も目の当たりにした。 命がどれ程のものか、あたしは理解し始めてる。 他人の命は重い。自分の命は軽い。 その考えをきっと考え直せるようになる。 1年間ある。 1年で、現実を受け入れるリハビリになる。
あたしは誰かの命を助けたいなんて思わない。 そんな驕ったことは云わない。 ただ、力を貸せる程度になりたい。 今は助けられて生きてる毎日だから。 今度はあたしが誰かに返せるように。 きっと、なる。
この小さな命2つ抱えて 自分の人生笑えるようになるまで そして誰かの笑顔を作れるようになるまで
あたしは生きたいと思えるようになる。 絶対生きていたいと思えるようになる。
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