限定鼓動

2010年04月19日(月) いつか

点滴を繋がれた左腕
血圧とSPO2が付けられた右腕
眠りに吸い込まれそうになると
酸素が下がる。
サーチが下がる度に、
付き添ってくれている旦那があたしの名前を呼ぶ。
機械が異常音を発する。
ドクターやナースが駆け付ける。
術中全く効かなかった麻酔は
ベッドに横たえられてから、やっと効いた。
呼吸を忘れるから必ず呼んで、とドクターが旦那に伝える。
いいよ、あたし。
そのまま死にたいよ。
警告の異常音が響く病室で、そのまま後を追いたいよ。
ねぇ。起こさないで。

痛いと他人に訴えることをなかなかしないあたしが
痛いと小さく喚いた。
けれど
ひとつの命を死なせてしまったあたしが
この程度の痛みで済んでしまうなら
あたしは何て謝ればいいんだろう。

何が何やら全く判らない、白黒の超音波写真。
テレビでしか見たことのなかったそれが
自分の手に渡されたとき
それでも愛しかった。
まだ何も変化のない腹に手を置いて
無意識に頬が緩んだ。
問題なんか山積みだ。
何度も泣いたし、悩んだし、ケンカもした。
それでも、可愛かった。


アナタを
最善の状態で迎えられるようにするよ。
旦那もあたしももっと強くなるし
アナタに無理させることなく、仕事だって都合をつけて
手放しでアナタの存在を喜んでやれる。
アナタの未来を想い、
愛おしい日々を過ごせるようになる。
大事に、大事にする。

だから、
いつか。

帰ってきて。

そして今度は、必ず腕の中に。


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陽 [MAIL]