2003年10月29日(水) |
第54章 消え去った想い(part2) |
「ちょっと、いいかな。」 そう言って、あきらちゃんが、マンションの階段へ足を運んだ。 「だめだよ。今、人が来てるから。」 「男か?」 私は、黙って、笑みを浮かべた。
「じゃあ、どこか店に行こうか。」 あきらちゃんが言った。
私は、あきらちゃんの車に乗り、話をするために、バーに入った。 心では、家に残してきた津川さんの心情が気がかりであった。
あんなに会いたかったあきらちゃんのはずなのに、 私のあきらちゃんに対する気持ちは、 ただの、情のようなものに変化していることに この日、初めて気が付いた。
「お金。。。ごめん。。。振り込んでなかったから。」 「あぁ。」
あきらちゃんとのおなかの子供をなくしてしまったことは、言わずにいた。 言わないでおこう。 そう思った。
なぜなら、私に返済のお金を振り込みもせず、まだ、自分を満たす為だけに、 贅沢三昧をしている生活が伺えたからである。
「ほんとに、心配してたんだ。ずっと、会いたかった。」 その言葉は、私の中で、空回りしている。
私も、ほんとうは、会いたかった。。。 以前なら、こんなあきらちゃんを見ても、迷いなく、 そう言っていたであろう。
あきらちゃんと別れて、苦労を積み重ねた私は、あきらちゃんの人間性を 色恋のハンディを与えず、冷静に読み取れるようになっていた。 それでも、長い間、この人の事を見てきたのだ、 他の人には感じない情のようなものが、あったことは否めない。
私は、笑って、「ほんとに心配してたの?」そう言った。
このときまでは、津川さんのことは、言わないでおこうそう思っていた。
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