2003年11月01日(土) |
第54章 消え去った想い(part4) |
「私はね、あきらちゃんと別れてから、必死で生きてきたのよ! やったことのない夜の仕事までして、毎日、無我夢中で生活したよ。 お腹に赤ちゃんもできて、その赤ちゃんを流産して。。。」 涙が溢れた。
あきらちゃんは、驚いていたようだが、私の話を黙って聞いていた。 私は、幾分落ち着いて、赤ちゃんの話をした。
心配しているようなそぶりは見せたが、 私には、あきらちゃんの心底からの気持ちを感じ取ることができなかった。
なぜなら、その後にも、平然と、「今日、泊めてくれないかな。」 そう言ったからだ。
この人には、もう、何を言っても無駄だ。 あきらちゃん自身が、もっともっと奈落の底に突き落とされるような 経験をしない限り、 私の話したことの本当の意味、人の温かい心 そんなものを心底理解することは、できないだろう。
「なんなら、ずっと、りかのそばにいるからさぁ。」 あきらちゃんの言葉が、薄っぺらく私の耳に入る。
「無理。私が、悲しくて不安で、苦労でいっぱいの生活をしているとき、 助けてくれた人がいるの。その人は、温かい心を持ってる。 苦労して努力して、自分の会社を立派にした人だよ。 モノやお金で助けてくれただけじゃない。私を毎日毎日、 一生懸命安心させてくれた。 私は、絶対に、何があっても、その人を裏切らない。 何があっても、その人に話せないような行動は、絶対にとらない。」
あきらちゃんは、私の言葉をまた黙って聞いていた。
私は、もう、鍵をポストに入れて、帰ってしまったであろう津川さんに、 とてもとても会いたくなった。
あきらちゃんが、目の前にいても、 もう、津川さんのことが、私の心を 埋め尽くしていた。
あの人は、どんな気持ちで、私を送り出してくれたのだろう。 早く会って、今度は、私が安心させてあげたい。。。。
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