雑記目録
高良真常



 オイディプスの刃 (本)

オイディプスの刃
      赤江瀑
 (旧)角川文庫 /¥420(昭和54年当時) / (新)ハルキ文庫/¥760



彼は、少し苦しいと言い、苦しいことはおれは好きだ、と言った――
ある晴れた日、大迫家の庭で。刀研師の秋浜泰邦が、赤いハンモックの上で名刀「次吉」に貫かれ、息絶えていた。
続く母の自殺。父は全ての罪を被るため、割腹自殺をして果てた。
ひとりの死が引き起こした惨劇は、残る三人の異母兄弟の運命を大きく変えることとなる。
そして、それから十二年後。散り散りになってしまった兄弟の道が再び交わる時、刻は動き出した――



映画化もされた、赤江文学の代表でもあります。カバー文には『名刀次吉に魅入られた者たちの行き着く果てを描く、――』とありますが、どうも私はこの話、ただ次吉だけが引き起こしたものだけではないのだと思います。次吉にも確かに毒はあるのですが、もっと他に、何か。
例えばラベンダーの香りに。母の香子に。それに向けられる思慕に。人の知り得ぬ運命の指に。
話は兄弟の中でひとり異端の位置にある、次男・駿平を軸に進んで行きます。逸れてしまった兄弟の、現在。行方不明だった弟が不意に姿を表す。そして、ただひとつの過去の、空白……。
ラストの駿平の微笑みは安らかで、安らかだからこそ、あの夏の日が遠い。
残されたものを守ろうと、身を穿って全ての罪を被った父の覚悟が、ただひどく哀しさを覚えるのです…









2004年08月17日(火)
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