『最後の物たちの国で』 P.オースター ★★★ どこの国とも、大昔ではないにせよ、いつの時代とも知れぬ、崩壊しつつある街へ 新聞記者である兄を捜してやってきた妹が 誰かに向けて、まさに<誰か>に向けてつづる手紙。 街へ来てからの凄まじい日々。 行政は死体処理とゴミの始末を行うだけ。 生産は当の昔に止まり、 公共施設、公共サービス、警察、病院といった機能は停止状態。 他の地域との交通もマヒし、 街がこの先、どうなるのか誰も知らない。 そこでわずかに助け合うことの出来た老女との日々、 兄の後任で来た男との偶然の出会い、 わかれ、再会、 慈善事業の手伝いと休止、 慈善事業のリーダーである娘との関係 ・・・徹底的にモノローグで語られる暗い状況での物語。 この先何がどうなっていくのか、まるで不確かな状況で それでも「もの」が「者」でなく「物」であることの意味が 次第に明らかになる読書の快感。 このタイトルは日本語表記になったほうが 原題より含むところが大きいかも。 (原題は"In the country of last things") もともとは息子が買ってきていた本。 親がほめると必ず冷ややかな反応を示し、 親が読まないと、読め読めとうるさい。 大体、柴田元幸の訳する類の本をあまり嫌だと思ったことはない。 これもいかにも彼が取り上げそうな作品だと思う。 (白水社 Uブックス)
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