いつの頃だっただろう 少しずつ空が曇り始め 雨の匂いがし始めた その時はまだ弱い雨だった 霧雨のような本当に弱い雨に 私は傘も差さず 道を走り抜けた
しばらくすると大きな雷が 一回だけ ただ それっきりだった 私は呆気にとられ 立ちすくんだ
でも空には厚い雨雲が覆いつくしていたけれど 私はいつか消えるだろうと思っていた 誰かが「雨が強く降るかも知れない、帰ったほうがいい」 そう 言ってくれた 確かにその後 雨はだんだん強くなっていった
でも 私が言って欲しかった言葉は そんな言葉じゃなかった
雷に打たれたとしても 雨でずぶ濡れになったとしても 私はそんなことどうでも良かった 嵐の中にあったとしても この道を走り抜けていることしか その時の私には 出来なかったのだから
でも私は帰っていった 帰ってずっと悩んでいた 降りしきる雨の中 グレーの海を眺めて 一人になりたくて 寒い冬の冷たい雨に ただただ 打たれていた
何人かが声を掛けてくれた 優しい言葉を掛けてくれた こんな時にも私は 愛想笑いばかりで 良い子を演じていた
そんなことがしたいわけじゃない そんな言葉が欲しいわけじゃない 良い子だなんて言われなくたっていい 私は 私はただ この雨のように ずっとずっと 泣いていたかった 声が潰れるまで 叫び続けていたかった
取り繕った嘘に身動きが取れなくなって 雨雲は晴れることは無かった 少しずつ光は差すようになったけれど 硬いしこりになって 今もこの胸に残っている
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