部屋を掃除してみた。
部屋の至るトコロからCDがワサワサと出てきた。
一年以上聞いていない、放置されていたそれらのCDをかけてみる。
…懐かしい。
と同時に、それらのCDが櫻邸にやって来た時の思い出が次々とフィードバックしてくる。
例えば夏の午後、夕立が過ぎた後のムッとしたアスファルトの匂いとその時歩いていた桜川の河川敷の景色と―みたいな。
最近…アレが来ない。
アレとは櫻の病気である。
精力的にライブをこなしているからだろうか。
やりたい事をしている時は例えば睡眠を取らなくても脳がリラックスしている為に気が満ちている。
…。
櫻が、音楽をする事を置き去りにした、過去のあの日…
遠い過去の、人生の道程における境目の一つだが、平凡な幸せに満ちた日常を得る代償に、音楽をすると言う“非”日常を捨てた事がある。
その代償が…アレだった。
ある日、突然目の前に現れたのは、音楽をしていた時の自分だった。
仕事を終え、深夜、最終電車で帰宅するワタシの目の前を、櫻が歩いていた。
目の前を歩く櫻は突然、後頭部から
「ドロリ」
と溶けて消えた。
「発病」した。
そして長い、長い時間をかけて、そしていろんな人の支えで、今日まで帰ってきた。
ちなみに…
ワタシが“櫻”に帰ろうと言う決意を与えてくれたのは、音楽だった。
XのVanishing loveだった。
櫻が初めてギターで完コピした曲でもある。
聞いた瞬間、おれは何をやってんだ?と思った。
何かがずれている事に気付いた。
櫻に帰りたくなった。
そして今日。
…そう言えば最近、アレがこない。
部屋に散乱する楽譜やらなんやらの山の中から掘り起こしたCDを久し振りに再生してみて、気が付いた。
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