身の回りにオニの面が散乱している。
節分の残骸だ。
巻き寿司、豆、お面の三点セットでパーティーをしたのだ。
同じカタチのお面を何枚も被って、桃太郎侍ゴッコをした。
…、ところで、桜デンブと言うものをご存知だろうか?
鯛のソボロにピンク色で着色した、巻き寿司に入っているアレだ。
…桜デンブがありえない。
桜デンブの入ったスシを食えない。
俺は桜デンブが嫌いだ。
と言うよりは、食い物がピンク色をしている事が有り得ないのだ。
これは、僕の、過去のトラウマに起因している。
…小学生になるまで、外のメシが食べれないコだった。
唯一、ファミリーレストランの平たい御飯だけは食べる事が出来た。
他人が素手で触った食べ物が気持ち悪かったのである。
神経質なガキだ。
従って、外の御飯は仕方なく嫌々手を付ける。
食べ終わるのも遅い。
ある日、幼稚園の給食にハンバーグが出た。
子供向けに、焼き目を付けず、しかも肉がピンク色に着色されていた魚肉ソーセージみたいなハンバーグが出てきた。
ただ、気持ち悪かった。
もう食わないわ、吐くわ、怒られるわ、泣くわで散々だった。
その一件以来ハンバーグ自体も嫌いになったが、やんちゃ盛りになった頃、ハンバーグは好物に変わった。
そしていつしか、ピンク色の食べ物だけは拒絶と言う、トラウマとして残ったのだ。
…僕はバンドのヴォーカリストとして存在する時、櫻と名乗っている。
幼い頃背負ったトラウマが克服出来るようにとの想いを込めて拝命した。
…、うそである。
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