ことばとこたまてばこ
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2005年01月04日(火) けものの髪

野蛮なけものが広大な草原でわたしを見据えた。
けものはわたしが見てきた生物全てを合体したとしても余りあるほどの巨躯。
けものの顔は妙に人間の女性に似ていた。


けものは肢体を優美に伸ばす。
けものは鮮血したたる腕をくわえて。
けものは眼にいささかの情も込めていない。
けものは人形とわたしを思っている。
けものは尻尾を揺るわせる。
けものは散らばる無数のしゃれこうべを押し潰しながら、地響きを立てて悠然と歩く。

その時、音楽が鳴った。
それはまるで酸化したような音楽。
凄まじいヴォリュームで草原に満ち渡る。



なんという、暴力的な。


瞬間、幻惑的な日光に照らされていたわたしを巨大な影が遮る。
空で音楽に合わせて大蛇が泳いでいた。
雲も怯えているのか、大蛇が進む先を阻む雲は皆無だった。
凶暴に青すぎる蒼穹を闊歩する大蛇は、ぐらりぐらり首を振り続けて。



君の髪は綺麗だね。
貝が、どんぐりが、小さな花が、煌びやかな小石が、実に君の綺麗な黒髪に映えておる。


大蛇、けものに向けて言う。


だからほら、こんなに大きくなった僕で君を潰してあげよう。



大蛇はそう言ってけものを押し潰した。


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