ことばとこたまてばこ
DiaryINDEXpastwill


2007年06月12日(火)

影がおめえに飛びかかった
影は何物にも触れぬことの出来ぬ透明な手で
だがそれでもおめえを引き裂こうと懸命に爪をたてて腕を振り回す
だれにも命令されてなどいないのに
ある役目を果たそうとするようにして狂おしく影は引っ掻き回し続ける
影の夢想ではもはやおめえの爪骨肉内臓はすっかりサイコロ状
周囲はむせかえる鮮血の芳しき香り
影は血だけを吸い取り浴び、深紅の影となって


究極的なけだものの姿に成り下がりながら
影は狂おしいほどに全身全霊でおめえをえぐりつづけた


しかしとうに無惨な姿に成り果てているはずのおめえときたら
猿がショッピングテレビを無益に眺めているような面を下げて
「鶴」と一言呟き、インコのクチバシに触れるなど戯れるばかりで、
影が全身全霊えぐった痕跡などどこにも観られない有様だった


影は舌なめずりをして泣いて、わななき、風化した


影は影だった


陽 |HomePage

My追加