ことばとこたまてばこ
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言葉が勢い良く消えてゆく しゃべってはしゃべり かたってはかたり つぶやいてはつぶやき その度に凄まじく言葉が消えてゆくのを見る それは異様なほど悲しい光景 煙のような言葉をどうにか形にさせようと 音無し子はテレフォンボックス内にとじこもる 目の前の猥褻ビラのダイヤルを適当に押して 音無し子は自身の言葉をしゃべり、かたり、つぶやく それでもだめだった テレフォンのむこうに誰がいるというのか 音無し子は電話帳を抱きしめる 女を抱きしめるように乱暴に でもどんな乱暴にしたって女は壊れやしない ひきつれた表紙の電話帳をめくる あ、か、さ、た、な、、、、 適当に女の名のダイヤルをふしゅふしゅふしゅ 繋がったかどうかなんて知らない 自分の名を何度も何度も発してどこまでも己の名に執着した ざいどう はるみち ざあいどう はあるみちいぃ ざぁいどぉ う はぁるぅみちぃぃぃいいい ざぁあああいどぉぉお おううう はあぁぁるうぅぅぅみちいいぃぃぃぃぃぃ ぃぃぃぃ ざああああぁあぁあいぃどぉおおおおおおおおお はあああぅぁ るぅみぃぃぃぃいちいぃぃぃぃぃ じゃぁああひぃいいいいいいぢょお おおおおおぉぉおぉうあぁああああああー ひゃあああああーあーああーあ りゅーうりゅうるぅーううううううぅうううぅぅうみぃいーーーーーぃぃいいい ちぃいいいいいいいーーーーーーーぃぃぃいいいいいいいいいいいいー
果たしてテレフォンは繋がっていた 受話器を持つのは産まれたての赤子を抱く女の看護士だった 聞こえるのは低い重量感のあるどこの国の言葉とも判別のつかない発音だった 看護士の腕の中で泣き続けていた赤子が突如ひたひたりと泣き止み眠りはじめた 名を延々と繰り返す声はいつしか異様な子守唄と化していた
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