うららか雑記帳
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2006年03月18日(土) 苦情は宝。でも…


*世間には色んな人がいる

私の今のお仕事のひとつに、住民の皆さんの相談を受け付けるというものがあります。
人権相談・行政相談と銘打って特設相談所を設け、月に一度、問題を抱えた人たちの相談や苦情を聞くのです。
といっても実際に対応するのは、地方法務局を通して法務大臣の委嘱を受けた委員さんでして、私は事務局としてその場に同席して記録を取ったり賄いをしたりするのが主なんですけどね。
委員さんは『相談内容を聞いて、しかるべき機関に連絡を取って事情を説明し、相談者との間を取り持つこと』が役目であって、それ以上踏み込んだことはできません。してはならないと定められているのです。
相談に来られる方も、問題解決に向けて次のステップに繋がれば充分だと心得てくれる人がほとんどなんだけど……中には「今すぐなんとかしてくれ、あんたたちはそのためにいるんだろう!」っていう人もいるわけでして。
そういう方には委員の立場や設置法令をきちんと説明して分かってもらうしかないんだけど、「対応が悪い! 地方自治体は何をやってるんだ!」となってしまう場合もあるのです。

うん、気持ちは分かりますよ。
意を決して相談に来て、誰にも打ち明けられなかった問題を洗いざらい話したのに、目の前にいるこの委員たちは他人や他の組織に話を振るだけで結局何もしてくれない。いくらボランティアだからって、それはないだろう!……って。
でも、でもね。市内にその問題専門の機関があって、それが現実にきちんと機能していて、行政側の担当課がそちらと協議した結果、その専門機関が対応するとなった以上、この場合、相談窓口の私や委員さんはこれ以上介入できないんです。
厄介事を他人に押しつけるわけじゃない。正規ルートで行政の上の方にも報告書を提出するし、何かあったらまたお話を伺います。
だから、お願い、分かってほしい。
委員さんにできるのは、本当にここまでなんです。

お役所仕事、と罵られるのはこういう体制だからなんだろなあ。
でも……定められた管轄を越えてしまったら、後々の混乱は免れないから。
対応する職員によって対処する範囲が違う。担当部署に持ち込めば管轄内できっちり対応する。後者の状態の方が、はるかに広く住民利益に貢献できるでしょう?



例えば、こんなケースもありました。
12月29日。休みに入って静まりかえった庁舎に、ブーツの踵を鳴らして尊大そうにやって来た娘さんがいました。
国税を滞納して、明日中に振り込まなきゃ将来自分の不利益になる。でも納付書を失くしたから振り込めない。納税する意志があるからこうして窓口に来たのに、どうして再発行してくれないの!? と、──窓口でご立腹していらしたお嬢さん。
それはね、その納付書は国の管轄で保険事務所で発行するものだからですよ。地方自治体は基本的にノータッチなんです。もう保険事務所は年末休暇に入っていて電話も通じません。他のところには振込用紙はないのです。大体、意志があるっていったって、納付できなくなる2年間ぎりぎりまで滞納しておいて、しかも納付書をなくしておいて、この暮れに駆け込んでこられても困ってしまいます。ほら、督促状にも太字で書いてあるじゃないですか。発行元は保険事務所、振込は銀行かコンビニで、って。役所に来られても対応できないのです。ごめんなさい。
お嬢さんは「じゃあもういい」と言い放ち、プイッと帰ってしまいました。真っ赤な綺麗な爪先で、苛立たしげに書類を握りつぶしていましたっけ。

できるものはできる、できないものはできない。
自分にできる範囲で手を尽くしはしますが、その大枠は変えられません。こういう相手でも怒らせずにうまく納得してもらえるような話術を習得しなくてはなりませんね。ううう。



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*三行小説

枕元の置き時計を確認した瞬間、胸を押さえた掌の下、心臓が乱れたステップを踏んだ。
冗談じゃない。
このあたしが寝過ごすなんて!



浜月まお |HomePage
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