デートをしましょう ということになり 港を見下ろす公園へいきました
ベンチの上では猫が港の方向をむいてすやすやと眠っており 夜中だというのに公園には若干の人がいて わたしたちはすこし歩きました
わたしと彼の間に不思議な気圧でも存在するかのように わたしたちはつかずはなれずで 話したり黙り込んだりしました
仰ぐようなまなざしで彼がわたしに横顔を見せるたび わたしのこころは浮き立つと同時にひどく怯えて
一緒にいるだけで息が止まりそうだなんて 帰りの方向へつま先が向くだけで泣き出しそうだなんて 狂っている まるで十代だと思う
あ、と 見上げると 誰が離したのか、風船 夜の公園を一定の速度で 港に向かって わたしたちは無意識に風船を追った 風船は薄明るい空に溶けてやがて見えなくなり
全ては 現実と妄想の境界が溶けて 混沌としており 最後に彼はわたしの手をとったのでした これはデートですから、と 彼は言いました 帰りの車までの数十メートル わたしたちは手をつないで歩きました それだけでした それだけでした
彼とつないだ右手が 今わたしを切り裂かんとしています 狂っています まったくもって狂っています
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