西へ。
少しの遅刻。
品川。奇しくもまた品川。
隣り合い。
少し話し。
少し眠り。
途中大きな湖では雪が降っていて。
少し目覚め少し話し少し眠り。
なれぬ駅で降りる。
違和感を禁じえぬ私。
懐かしそうに目を細め空気を嗅ぐ彼。
行き先を間違えうろたえ。
ようやくに辿り着き。
話し合いの間ときどき敬語が抜ける。
その声の低さにいちいち私は泣きそうになる。
多分に私の知らないこの世のうつくしいことやきたないことや実用的なことや実用的でないことや善いことや悪いことをこのひとは知っているのであろう。
そのことを思うたびに
息がつまる。
春から私が暮らす家はがらんどう。
その中に確かにあなたはいた。
かぐわしい横顔で。
猫のまなこで。
私はそのことを忘れないでしょう。
少し食べてから古い町へ移動した。
目的はなく。
そぞろ歩く。
目を合わせることは殆どなく。
(だってそのたびに私は泣くのをこらえる。それがつらい。)
戯言を話し少し笑い。
土産物屋をのぞき。
どんづきの神社へ。
おみくじは互いに十三番大吉。
急げ。と。書いてあった。
嘘みたいに雪と月。
また宇宙が自分を中心に渦を巻く。
つかの間の相合傘。
夢の中を歩くみたいに遊郭をのぞく。
軒下の猫にちょっかいを出す。その背中。
少し離れて私は声が出ない。
薄い明かりの中ひとつの店を選び取り。
お酒を飲み。
互いのことを少し話し。
すべては言葉ではない、雰囲気で決まっている、それは意思のちからでどうにもならない、
ということを話していて
それでは私は生きるのがつらい、と言うと
いやあなたは魅力のあるひとですから
と 低い声で。
喉の奥で私は泣いていた。
この言葉をも私はきっと忘れられない。
店をあらため。
互いに深く酒を飲んだ。
からしれんこんは飽くまでうまかった。
宿をとり
ようやくに私は実のところ一日中触れたかった彼の手に触れた。
限られた四角の上でしか互いに触れられない。
そのことが 私は とても とても くるしい。
彼は禍々しいまでにすとんと眠りに落ちる。
眠りの奥に闇を見る気がして私は彼が眠ることがいつも少し怖い。
朝は夜の続きのようにやってきて
そのことを私は少しありがたいと思う。
窓の外には意味のわからない風景。
後ろから少しだけ抱いてくれる彼。
やめてくれ それが とてもつらい せつない くるしい こわい
戯言を重ね
朝の町へ。
短い旅が終わることを
私はなるべく素直に寂しいと伝えるように努力する。
帰りの電車も眠る。
眠りの合間で指を手繰る。
どんな行為よりも官能的だと感じる。
そしてまた品川。
現実が戻ってくる。
もう後戻りは出来ない。
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