綿霧岩
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この間、舞台を見に行ったのです。 出演者は4人、心地よい集中と緊張感の中で、時間は進んでいました。一時間たったところで、演出の方が突然横から出てきて、「申し訳ございません。ここで一度止めさせて頂きます。客席に急病人の方がおられます。今から救急隊の方々が入って来られますので、ご協力お願い致します。」というようなことを言いました。それは冗談では無く、客席にいたおばあさんが本当に息ができなくなっていて、担架で運ばれて行きました。私は一部始終、おばあさんと、救急隊の人たちと、それを見守る観客たちと、さらにその外側から、その状況を見たり、見れなかったりしている芝居を中断されてしまった役者さんたちを、見ていました。どういうことかよくわかりませんが、どきどきどきどきして、涙がぼろぼろ出ました。 ひとまず落ち着いて、運ばれて行ったおばあさんは息を吹き返したという情報を演出の方が伝えてくださり、芝居を再開するにあたり、「中断してしまった少し前から始めるか、もう一度改めて最初から始めるか、決めかねており、観客の皆様にご示唆いただきたいのです、スタッフ、役者たちはどちらでもいけると申しております、」と言われて、また私はぼろぼろと涙が落ちてしまう。一体何故こんなにもぼろぼろ落ちるのか。 上演予定時間は一時間半。すると観客の女性が「母乳の問題があって、これから一時間半はちょっと・・」というようなことを訴えられ、そういうことなら中断した少し前から始めましょう、そうしましょうと観客も皆頷いた。そして、数分後、再開した。 舞台は淡々と進んでいく。中断した間にあったこの事件も飲み込んで、何事も無かったかのように、でもここにいる全員が何事かがあったことを知りながら、物語は膨らみ続け、四人目の役者さんが初めて登場して、その人の存在が正にこの場所にとって新しく、なんかもうすごかった。 もしも自分が役者であったら、心臓が止まる思いであろうが、観客の私はものすごい贅沢をした気持ちになっていた。のでした。
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