| 2005年07月22日(金) |
御噺 『もう一人の白雪姫』 |
#今日の日記は後ほど。 これは 昔々書いた別の方向から見た「白雪姫」の御噺。 拙くてお恥ずかしいですが#
『もう一人の白雪姫』
この森は昔から私を優しく包んでくれた。 もう少し奥へと行けば もう誰も私を見つけられないだろう。
人々が”入ると二度と出られぬ魔の森”と呼んだ この森に消えた私を みんなは魔女だと言うだろうけれど 今はそれすらどうでも良いような気がする 私は もう疲れてしまった。
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この国に嫁いできて何年が過ぎただろう。 私の国のみんなは 政略結婚の犠牲になる かわいそうな”夢見る姫様”と言ったけれど 私は幸せだった・・・。 幼い頃 かいま見たその隣国の王になるべき若者を 私は 密かに愛していたのだから・・・。
だから 彼のお妃が小さな姫を残して亡くなってしまい 私がその後のお妃として彼の元へ嫁ぐのが決まった時 私は ずっと叶えられないだろうと あきらめていた想いが 叶う喜びに胸を震わせたものだった。
そう 私は国ではこう呼ばれていた 「漆黒の髪と雪のように白い肌に薔薇色の頬 血のように真っ赤な唇 私達の愛する白雪姫」・・・と
だから この国へ来て 小さな姫の名前を聞いたときは びっくりした。私と同じ名前・・・。 そして 私達はとてもよく似ていた・・・まるで 本当の親子のように。
王が私をお妃にと望んだわけも 私が前のお妃様と 似ていたからだとそう聞かされたときの切なさ・・・。 でも それでもいいと思った・・・彼の側にいられるのなら。
でも彼の目はいつも私を見てはいなかった。 私を通り過ぎ もう手の届かない世界に行った人を見ていた。 そう・・・いつもいつも・・・。 それでも 耐えることが出来たのは いつか私を 見つめてくれる日が来るとそう信じていたから・・・。
でも 運命は無情だった。 王は美しく成長した小さかった白雪姫に 亡くなったお妃様の姿を重ねて愛おしげに見つめるようになった。 それは 父親としての当然の愛情だったろうけれど 私には辛いものだった。 一度だって 私をあんな風に見つめてくれたことがあっただろうか? いいえ 私を見てくれたことはあったのだろうか?
周りのもの達の 私を見る目も冷たかった。 隣国のただ 政略結婚の道具として嫁いできたお妃。 前のお妃様に私が似ていればいるほど それはまるで 私に暖かく接することが前のお妃様を裏切るような 気持にみんなをさせたのだろう。
もう ここでは私を ”白雪姫”と呼ぶものはいない。 私は いつもひとりぼっちだった。
いつのまにか 私は国から持ってきた鏡に向かって独り言を 言うようになっていた。
「鏡よ 鏡よ 私は美しいのかしら どうして みんな私を愛してはくれないのかしら 白雪という名前も もう 私のものでは 無くなってしまった」
誰かがそれを 聞いていたのだろう。 誰 言うともなく 「お妃は魔女で自分の美しさを 鏡に尋ねては 白雪姫の美しさを呪っている」と 囁かれるようになってしまった。
そうしてあの日・・・。
私は知らなかった・・・あのリンゴが本当は私に 食べさせるべく用意されていたということを・・・。 知っていたなら この長い苦しみから逃れるために 喜んで食べたものを・・・。
白雪姫がリンゴを食べて倒れてしまったときの 私の驚き・・・白雪姫も知らなかったのだ。 彼女はそんなことの出来るひとではないから・・・ 本当に純粋で無邪気な姫・・・。
それからは よく覚えていない 姫の婚約者の王子が知らせを聞いてやってきて 姫を抱きながら泣いていたとき リンゴの破片が 口から転げ出て 姫は息を吹き返した。
そうして ホッとする暇もなく 姫に毒リンゴを食べさせたのは 私ということになってしまっていた。 いくら違うと言っても 誰も信じてはくれなかった。 そう 王さえも 悲しげに私を見つめた後 一言「連れていって閉じこめておくように」と そう言ったのだった。
私は絶望した。 そうして 閉じこめられた部屋を抜け出し (監視の目が緩かったのはせめてもの王の気持だったのだろうか) この森へとやってきたのだ。
あぁ そういえば 昔こんな話を聞いたことがある。 何処か深い森を抜けたところに 小さな国があって そこはどんな人間でも優しく受け入れてくれるのだと
もしも・・・もしも・・・ この森を抜けたところにそんな国があって その国を見つけることが出来たなら 私は もう一度 生まれ変わって生きることはできないだろうか
もしも・・・そんな国があるのなら 私は・・・・・・・・・・。
* こうして 悪い魔女のお妃は死んでしまい みんな幸せにいつまでも暮らしたということです *
そう この森を抜けることができたなら 私は 生きていこう。
生きていこう・・・
もう一度・・・。
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