心のガーデンは修羅ですよね。
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2005年06月10日(金) ●コードネームはいつだって誰も知らない(山崎の小話)

いっそ清々しすぎてまるで嫌味そのものだね、この朝は。
空気は澄みすぎて、
酸素が濃すぎて、
ああ、
僕は外になんか出たくはないんだ!

コードネームはいつだっても知らない

ヤワな障子紙から差し込む光で、今日は晴天だとわかる。
せめて昨日の雨に少しでも居座る図太さがあったら、今朝は霧雨かせめて曇りだったかも。
布団の中は身体の一部のように居心地がいい。まるで、あつらえたような適温、この肌なじみ。
そして自分のとは違う、甘いような、鼻の奥がくすぐられるような匂い。
自分の腕の中に、胸の内にすっぽりとおさまってしまう彼女の耳の下、顔を埋めてそれがこの人の匂いだと確かめて、
もう一度布団に潜ってしまいたい。
(だけどねぇ、それができるならねぇ・・・ああ、仕事、辞めよっかな)
こんな朝を迎えるたびに、繰り返し思う。
別の仕事、例えば、むさ苦しい男ばっかりの部屋の中で布団が一枚ひけるスペースだけが「自分の部屋」なんかじゃなくて、
おかずを争って掻き込むような朝ご飯なんかじゃなくて、ストーカーとか、バズーカとか、マヨネーズとか、
二言目には刀とか時限爆弾で事を済まそうとするような危険な人たちが仕事相手なんかじゃなくて、
たった一人で準備を整えて、「何かあっても」身元がばれないように自分の痕跡を丁寧に消して、何日かしたら斬るか斬られるかってそんなオソロシイ展開が待ってるような人たちの中で情報を集めて流すなんてこともなくて、
ただ、日の沈む頃に、今日もよく働いたなぁ、なんて思いながら、小さいけれども輝ける我が家へ帰れるような。そんな仕事。

こんなに離れがたいというのに現実は無情だ。腕の中の人はまだ夢の中。ため息が出そう。
細くて柔らかくて、優しくて、しっかりしていて、穏やかな目で、いつだって迎えてくれる。
僕が、泥だらけでも、血にまみれていても、顔を半分腫らしていても。
目が覚めた時、僕が既にいなくなっていて、きっと布団が半分冷たくなってしまっていても。それを何度繰り返しても。
(ごめんね、ごめんなさい、今日もまた、おんなじです)

晴れた朝は否応なしに、それを味わうこともできないままに任務に就く自分を突きつけてくる。朝の太陽はうらめしい。
僕はまた、誰も知らない何者かになって、他の誰も見ることのない世界に立って、仕事を続ける。
それがないと、真選組の仕事は始まらない。僕はきっかけ。動かぬ証拠。
重すぎて、膝を折ってしまいそうなとき、僕を繋ぎとめるものは・・・きっと。

仕事がうまく運んで近藤さんが喜んでくれたらなら、僕はそれがとても誇らしい。
土方さんや沖田くんが現場で活躍してくれたらなら、僕はそれがとても頼もしい。
万事屋の旦那たちとたまには騒いで、みんなが楽しかったなら、僕もとても楽しい。
どれだけ長いこと音沙汰がなくても、ようやく時間ができたと思ったら真夜中で、
そっと窺った僕の気配をどうしてか気付いてくれるこの人が笑ってくれたらなら、僕はそれで救われる。
最近はあんまり振っていないミントンのラケットも捨てられそうにないし。

いろいろありすぎて、今はまだ、こんな生活を変えられそうになさそうです。

差し込む光が、少し強くなった。
遠くで人の動き出す気配がする。のんびりしすぎたかも。
静かに腕を抜いて布団から這い出ると、身支度もそこそこに三和土の靴に手を伸ばす。
振り返ると、小さく盛り上がった上掛けがゆっくり上下している。
(また、来るよ、かならず、できるだけ早く)
振り切るようにして外に出ると、案の定、太陽は「にっこり」笑って浮かんでやがる。
ああ、むかつく。いつか、お前なんか完全シカトで朝からいちゃいちゃしてやる。
ぜったいしてやる。

そう思ったら、なんだか急に気分が晴れた気がして、
水溜りに映った太陽に思いっきり
足蹴の刑を食らわせながら僕は屯所への道を走り出した。

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↑ 山崎退の話です。あ、朝帰りだ。屯所前で土方さんに殴られちゃう!
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