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転移


なんとなく、わかっていたのだ、と思う。
術後1年検査。
やっぱり、転移。
まだ細胞診前だから、厳密には癌かどうかもわからないし、転移なのか原発なのかもわからない、けれど。
不思議なことに。
アタシの中で、癌であるという、不確かで確かな何か。
先生はすぐに細胞診を、とおしゃってくださったのだけれど。
アタシは即座に。
「検査も治療もしません」と。
カゾクにも何も伝えないままに。
それは申し訳ないかな? とチラリ想ったけれど……。
多分、検査しても治療しても。
アタシの寿命はもう変わらない、と本当に不思議なのだけれど、
それが、わかる。
この1年。
2つの原発癌で、いったいどれくらいお金を使ったことだろう。
もちろん。
経済的な理由だけではナイけれど。
やっぱりそれもひとつの理由。


アタシの言葉が、かなり強かったのだと思う。
先生は、『はあ〜っ』とため息をひとつ。
で、
『でも定期的に検査だけは受けに来てね』
と。
乳癌の折りには、残る乳房も一緒に取って欲しいと懇願したり。
入院日数も大幅に縮めて貰ったり。
我が儘な患者で、
ごめんなさい、先生。
でもありがとうございます、先生。


その日はとても遅く帰った元相方さまとは顔を合わせず。
翌日もとても早くに出勤した元相方さまと顔を合わせず。
でもメールで大雑把に説明しておいたので。
だいたいのところはわかってくれたと思っていたところ。
翌々日、夜。
ふたりっきりのところで。
『経済的余裕があったら、検査してくれる?』
と急に話しだした、元相方さま。
アタシは即決、「お金があっても検査はしない」と答えたのだけれど。
したら、カレがぽろぽろ泣きだすのでびっくりして……。
聞けば、一昨日の夜、とても遅かったのは。
会社の同僚が心中事件を起こし、元を辿っていけば、経済的に追い詰められていた、ということが原因ではないか、とのこと。
年格好、アタシと元相方さまとほとんど同じ。
妻が慢性腎不全を患っていて、血液透析が辛く、『これ以上は辛いから殺して欲しい』
と懇願し、夫(元相方さまの同僚)が妻を絞殺し、練炭で自分も自殺したらしい。
けれど、死ぬ前に知り合いにメールを送ったらしく、急を知ったその人が119番をし、警察がかけつけ、夫は意識不明の重体で発見され、その後、意識を取り戻したという顛末。
妻は死に、自分は生き残り、職を失い(おそらく)、蓄えもなく、夫婦に子どもはいなかったとのこと。
元相方さまは、同僚に自分を重ね、涙が止まらなくなった、と言う。
本当に優しい人。
そんな人を悲しませるジブンがつくづく情けない。
ごめんね。
ごめんね、を何度口にしてもキモチは伝わらない。
それでも。
勝手でごめんね。


アタシはどう流れていけばいいのだろう。
わからない。
混乱して、ますます追い詰められる。
ジブンのことなのに。
路を見つけられずに、いる。
こんなに人生を重ねても。
まだわからない……。


2009年12月19日(土)




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