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北端あおい



 太宰治『お伽草子』

言葉といふものは生きている事の不安から、
芽ばえて来たものぢゃないですかね。
腐った土から赤い毒きのこが生えて出るやうに、
生命の不安が言葉を醗酵させているのぢゃないですか。
よろこびの言葉もあるにはありますが、
それにさへなほ、
いやらしい工夫がほどこされているぢゃありませんか。
人間はよろこびの中にさへ、
不安を感じているのでせうかね。
人間の言葉は工夫です。気取ったものです。
不安の無いところには、
何もそんな、いやらしい工夫など必要ないでせう。

(太宰治「お伽草子」『太宰治全集 7』筑摩書房、1990)

2005年05月09日(月)
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