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僕はチョコレートが嫌いだ。
「お願い、あなたに食べてもらう為だけに生まれてきたの」とか 「あなたに食べてもらえないと、私、死んじゃう」とか 「もし、あなたが食べてくれるなら、私はなんだってするわ」とか
言われたら、食べられなくもないが、そんな台詞を言われたことがないので 普段の生活で、まず口にすることはない。
そんな中、僕の目前のテーブルの上にチョコレートドーナツが置いてあった。 父親が会社の帰りに、お土産として買ってきたみたいだ。
いつもなら、見向きもしないのだが このドーナツは、かの有名なクリスピー・ドーナツなのだ。 なんでも、随時1〜2時間待ちの長蛇の列が出来るほど人気らしい。 並んでまでしてでも、食したくなるほどの絶品なのかどうか 確かめてみたい衝動に駆られるが、生憎チョコレート類しか残っていない。
ただ、食べ物の好き嫌いは、年齢、季節、 その時の主観的な流行によってある程度、変わってしまうものだ。
つまり、あの時にダメだった食べ物が、 大人になった今では、食べられるようになったという事例は多くあるということ。 ビールがいい例だ。 子供の頃、父親がよく飲んでいて、それを眺めながら 「そんなに美味しいのかな?どうして大人にならないと飲んじゃいけないんだろう?」 と、疑問を抱え、父親がトイレか何かでその場を離れた隙に こっそりと飲んでみたが、とても苦くて飲めたものじゃなかった。
が!
現在では、ビール様は毎日のお世話になっていて 生活に欠かせない体の一部になっている、のは言うまでもない。
そう、つまり、子供の頃ダメだったチョコレートが 大人になった今では食べられるのではないか?と思い。 チョコレートドーナツを1つ頂戴した。
もぐもぐ・・・ もぐもぐもぐ・・・・ん!
ぐはぁーーーー。
ダメだ、ダメだ・・・ 何年かぶりに食べたチョコレートは、あの頃と変わらず、やっぱりダメだった。
前面に主張しているあの香りと 舌にとろけるカカオの、やけに甘ったらしい味がどうも受つけない。
大人になっても、苦手なものは苦手なのだ。
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