本日はご多忙の中、息子シドの葬儀ならびに告別式にご参列いただきまして、誠にありがとうございます。まず、あらかじめ言葉を選び用意しておくことは、シドの性格上、失礼に値することだと思ったので書留めのようなものは一切用意しておりません。九五年の五月三十日早朝、彼はピッキングで我が家に侵入しようとした何者かをとり押さえようとしたところ、凶器によって頭を殴られ、それ以降言葉も反応もない植物状態となってしまいました。一時は死と隣合わせになりながらも何とか生き続けましたが、原因不明のまま犯人も捕まらずにシドは一昨日、息を引きとりました。姿、形もわからない犯人への怒りは治まりませんが、彼は私たち家族に�狎犬�る�瓩箸いΔ修遼榲�の意味を教えてくれた気がします。正直なところ、介護を始めシドにかかわること全てにストレスを感じ、投げ出したくなる時も多々ありました。ですがそんな時、彼の──シドの目が私たちに気づかせてくれたんです。それまで意識することなんてなかった、ごく当たり前な毎日を送ることができる幸せ、生きていくことの大切さを。私はシドを母親としても女としても心から愛していました。当然、今もこれからもその気持ちは変わりません。────結局……結局私は、お腹を痛めて────産んだ子を、自分の身勝手な生き方によってシドのお爺ちゃん、つまり私の親に一度も抱かせてあげることができなかった……。この悲しみはシドが逝ってしまった悲しみと同様、一生私の心から消えることはないでしょう。シラギ先生、ヒトミちゃん、リョウコちゃん、サジ、シンちゃん、リョーキくん、ヒロトくん、今までシドを支えてくれて本当にありがとうございました。今こうしてみなさんがシドのために涙を流してくれていることに私たち家族は感謝と感動の気持ちでいっぱいです。シドは最期の最期で、あの喋ることなんて不可能だった彼が、待ち続けていた彼女に、愛してる、と小声ながらも言葉にしたそうです。シドにとっては限りなく狭く地獄のような世界だったと思います。それでもそのことを聞いた時、あの子に私たちがずっと語りかけていたことは全て聞こえていたと確信しましたし、みなさんの励ましの声だけで生きていたとしても幸せだったんじゃないか、と思ってしまいます。数時間後──シドは、灰と骨という姿になってしまい、そしたらもう二度とこの子の体には触れることができなくなります。だから最後に、みなさんそれぞれの想いを込めて、シドの体に触れてあげてください。十八年と六ヶ月、息継ぎもしないで全速力で生きてきたシドに。お願いします──。言葉がうまくまとまらず申しわけございませんが、本日は誠にありがとうございました。
<了>
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