祖父の伝説 May,4 2045 5月4日 21:35 神戸 東2局 東家 持点25,300点 前局の、まさかの3倍満の上がりに内心興奮を隠せずにいた。 洗牌しながら、他家のかき混ぜる指先には注意していた。 上家の戸田と下家の池本が早い。 散らされた牌を俺と対面の清原が積むといった具合だ。 イカサマ技はご法度と受付で聞いてはいたものの、こういう展開の後は何が起こっても不思議ではない。 俺は高ぶった気持ちを抑えよう抑えようと、スローな動作で親の配牌を取り出した。 東家 龍正 配牌 ![]() 配牌はまずまずの手。ドラは中。 ここから マンズが伸び、順調に一向聴(イーシャンテン)まで伸びる 東家 龍正 5順目 ![]() そして5順目、八萬を引き、4ピン待ち、タンヤオ(2,000点)の聴牌。 345の三色目もあり、闇テンに構えた。 2順ツモ切りが続いたあと、池本からリーチ宣言。 南家 池本 8順目 捨牌 ![]() ドラは場に1枚も見えていない。 対面の清原も、上家の戸田も動きはなく、捨て牌に色の偏りも感じられない。 ドラの在り処も池本の待ち牌も絞れない以上、聴牌を維持しながら様子を見ることにした。 東家 龍正 9順目 ![]() 一発目に持ってきた牌は赤の5ソウ。 池本の現物でもあり、筋牌の2ソウを切れば、345の三色(7,700点)の手になる。 普段なら、2ソウを切って闇に構えるところだが、池本という男の手筋がわからない為、 一寸、考えた後、赤5ソウをツモ切ることにした。 「親は現物の5ソウのツモ切りか、堅いな」 「池本さんのリーチってのも珍しい・・・」 戸田の他意のない声に、清原の池本へのリーチの感想。 額面通り清原の言葉を受け取れば、池本は役作り中心の闇テンの麻雀がいつものスタイルなのだろう。 あれこれと、考えている間に10順目のツモは4ピン。 東家 龍正 10順目 ![]() 「ツモ・・・。1,000点オールです」 「なんやそら、2ソウと赤5ソウを入れ替えれば、4,000点オールやないか」 赤5ソウを指差しながら、清原が嘲笑した。 全員が1/10オンス金貨1枚(1,000点分)を卓上に置き、 「その手で、2ソウが止まるのか・・・」 戸田は感心したように呟き、池本に視線を合わせた。 「池本、手を開いてみな・・・」 戸田に言われ、不本意そうに手を開いた池本の手は、 ![]() 2ソウ待ちだった。 「あ」 清原が、素っ頓狂な声を上げた。 (闇なら2ソウをホウジュウしていた・・・) 本来、この手ではリーチを掛けないであろう池本がリーチ宣言したということは、 十中八九、俺を値踏みしたリーチなのだろう。 身が引き締まる思いで、俺は卓上の4枚のコインを拾い上げた。 「椎名君だったかな。君のところは代々麻雀打ちの家系か?誰に教わった。」 「祖父と伯父に教わりました。」 「祖父? ひょっとして、椎名権蔵(しいなごんぞう)さんという方か?」 「ええ、権蔵が祖父ですが・・・ご存知なんですか?」 戸田の口から祖父の名が出て、俺は驚いた。 「権蔵さんといえば、神戸の街で知らない者はいないだろう・・・この街の名士だからな」 「ええ?あの爺さんのお孫さん?」 対面の清原は別の意味で驚いているらしい。 椎名権蔵・・・2,037年まで神戸市長を勤める傍ら、地元の建設業の取りまとめ役でもあった。 政財界から、裏社会まで顔が広く、黒い噂も絶えなかったが、その敏腕により3期市長を勤めた。 2,038年、心筋梗塞で他界。享年85歳。龍正と遼平の祖父。景次の父。 「若かった俺や三上がこうして神戸の街で根を張れたのは、権蔵さんのお陰だからな」 「・・・そうなんですか」 「そういや、権蔵さんには2人の息子さんがいたな」 「ええ、父と、伯父がいます」 「2人の息子達に、それぞれ男の子が産まれて喜んでいた姿が懐かしいよ・・・」 「そういや、戸田社長の社長就任祝いの時に・・・」 「ああ、もう20年近くになるのか・・・」 俺は戸田と池本の昔話にある種のひっかかりを感じたものの、 話の内容からすると、伯父の景次にも子供がいたことになる。 (景次伯父さんに男の子が? そんな話、聞いたことはないぞ・・・) |