月のしずく・星の欠片
春妃。



 眩し過ぎて近付けない


わたしは本当に無力で。

いいえ、人はみな無力です。

それらを認識して、
初めて何か自分に出来る事をしようと
思うのです。
それでも役に立たないことが、
多くあります。


わたしは様々な経験の中で、
人間が無力である事を充分認識して
いるつもりです。


初恋の人が亡くなった時も、
冷たくなっていく手を握り締めて、
ただ泣く事しか出来ませんでした。


若くして結婚し、
大好きだった優しい夫が亡くなった時も、
呆然とそこに立ち尽くし、
そして娘を抱き締め幼い彼女に、
突然の父親の死をどう説明するかだけを
考えていました。

看護師になって、
小児科に配属され必死だった当時。

わたしは自分の娘が高熱を出しても
仕事に出向き、
結果彼女の病態を悪化させ、

大事な大事な娘



亡くしました。
短い結婚生活の中で得た、
夫が残してくれた大切な忘れ形見でした。

「 ママ、泣かないで。わたし大丈夫だから。
泣いちゃ駄目だよ。
わたし、パパのところに行くね。
ママ、大好き。ママ、ありがとう。」

幼い彼女が、酸素マスクの中で
苦しい呼吸を我慢しながら、
残してくれたやさしい
言葉でした。


死亡時刻を医師から伝えられても、
わたしはそれを受け入れられず、
彼女の亡骸を抱き締め、
必死に語りかけ温めました。
名前を呼び続けました。
彼女が大好きで、
何度も読んでとせがむ為、
暗記してしまった絵本を
耳元で聞かせました。
やわらかく色素の薄い髪の毛を
撫で続けました。

幾度も
幾度も・・・。


それでも

彼女は冷たくなっていくのです。
目を開けてはくれないのです。
あの笑窪の出来る笑顔を見せて
くれないのです。







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看護師のくせに、


わたしは


娘を見殺しにしたのです。




こうして人が無力である事を痛感し、
謙虚であることを常に念頭に
置きながら生きてきました。

そしてどこかで常に、

自分に、
人生に、
人に、

絶望してきました。


そう、生きながら

死んでいました。



この次どなたかが、
わたしを必要としてくれたのであれば、
わたしは全身全霊で、
その方を守り出来る事全てをしたいと
思い続けてきました。



でもね。


やはり人は無力です。

何も出来ない。

それが

悔しくて。


その人の喜ぶ顔が見たいと思うのに、
結局いつも困らせて、
心配を掛けてしまうのです。

加えてわたしは強欲です。

独り占めしたくなるのです。
その方を。

あんな思いを二度としたくなくて、
温かさが欲しくて
安心して夜を迎えたくて。
自分だけを愛して欲しくて…。

この3行だけで、
いかにわたしが勝手な人間かが判ります。



何故、わたしは懲りないのでしょう。
なんてわたしは、傲慢なのでしょう。


そして、


人として持たなければいけない全てを、


わたしは


持っていない。
不足している…。



近付きたかった。あなたに。

穏やかで思慮深く優しい。
でも守るべきものの前では強く恐れず、
立ち向かうあなた。


眩し過ぎて近付けない。







2007年06月01日(金)
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