2009年05月12日(火)...喪失
助けて、助けて、助けて。吐息に混ざる其の言葉は宛てを見失ったまま、アスファルトに染み込んでゆく。白と黒の縞模様が波打ち、一歩一歩を弾き拒んでいた。
埃に塗れた陰気さを積もらせた自室には戻る気にもなれずに、自動販売機が寄越す温もりを背中に座り込んでいる。似姿が傍らを擦り抜けて階段を登る度に募る思慕と引き戻されてゆく時間に目の前がぐらぐらする。
立ち寄ったコンビニで手に入れた銀色の慰みを取り出して、カーディガンの袖を捲り上げる。不明瞭で不確かな思い付きと保身で固められた口約束が脳裏を過って、それでも、助けて、の宛てにもならない温もりは、最早、躊躇いをも生み出す糧にもならずに、握り締めた其れは込めた力が揺らぐことなく引き抜かれた。
世界の総てから閉め出されて、何処に安穏を見出だせば良いのだろう。あの頃の庇護された幸福と寵愛、惑溺に勝ることが永遠に無いと云うなら、もう、生きてなくて、いい。