のぞき窓からのぞくと 黄色い毛血走った眼気違い染みたウサギの着ぐるみが分厚い封筒を手に あせった風に郵便受けにそれを突っ込んでゆくので 訳知り顔の私は気にもしない素振りで ウサギがすっかり見えなくなった頃を見計らい封筒を引きずり出し 封を切ると入っていたのは愛の言葉を書き連ねた絵本 それなのに絵柄は壊滅的なモノクロ 最後のペイジには返答をよこすようにとの催促が一行書かれてあり 催促などせずとも自明であろうにと思いながらの再会を果たす 不思議なことにその男の顔は記憶の靄にかすんで見えず 肌を触れ合う感覚も不確かで (なぜ夢の中のセックスは挿入まで至らない? なぜならそれは女は夢精ができないからであろう) 要するに忘れてしまったのだろう温もりを私は はったりの世界(夢であれ現実であれそれは) 梅雨空 重い空気 円く切り取られた天蓋 夜の坂道を転げるように駆ける 「埠頭まで」啓示のような声が響く あの夜から宇宙は膨張を続けている いよいよ私はどうしてよいのかわからない
目が覚めたときはすっかり肌が冷え切っていて 私は香を焚きシャワーを浴びた 女の中には女の血が脈々と流れる 母の純潔と祖母の外道 共存を許す自分のからだを観察しつつ身を清める 動くべきときはいつも突然にやってくる その日まで 気違いウサギは逃亡を続けるのであろう
| 2006年06月17日(土) |
子宮についての一考察 |
その臓器を考えるとき 私はサモトラケのニケ像をイメージする 宿命の宮 翼を広げた女神に わたしたちは翻弄され 泣き 痛みを知る
今年もまた誕生日がこようとしている
天空がまるく切り取られていた あの夜からもう一年がたとうとしている
波の音 空気の重み 湿った肌 何もかもを如実に思い出せるのに
随分遠いところにきてしまった
失ったものはなんだったのか 宇宙の収縮そして拡散 私はまだ感受することをやめていないのか
芝浦埠頭 再び訪れる勇気を どうか
暗い水は まだ冷たいことだろう
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