京都秋桜
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2005年03月30日(水) |
小説のすすめ【デス種】【ハイネ夢】 |
あなたの死で世界が救われるのならば、あなたは命をささげますか。
「なんだ、そりゃ」 「小説の一文」
休憩室で本を読んでいた彼女は周りにハイネ以外の人間がいないことを確認してからとある一文を口にした。 思ったとおりのハイネの反応に彼女は即答した。
「先輩なら、どうしますか?」
なんとなくだけど、ハイネの回答が聞きたくて、わざわざ口にしたのだからと彼女は心の中で思う。本の間に指を挟んで閉じてハイネに聞く。 しかし、ハイネの返事は冷たいものだった。
「どうもこうもありえないだろ」
いつものオレンジのままでそう言う。頷いてくれることを期待していたわけではなかったが、彼女は首をかしげてシルバーグレイの髪を揺らす。 ありえない、とそんなことは彼女にだってわかりきっていることだ。だけど、想像することくらいできるだろう。 自然と不満気な表情になっていたのか、立ち上がったハイネは彼女の頭をポンポンと撫でながら言う。
「じゃぁ、マーベルは?」 「私ですか? 勿論、ささげますよ。だってそうしたら世界を救われるんですから」
彼女の想像通りの返事にハイネは苦笑する。まじめで律儀な彼女がそう答えることなどハイネにとっては火を見るより明らかなことだった。 それを悪いとは言わない。しかし、ハイネは思う。
「んーでもさっ、それって誰にささげるんだ?」 「え…?」
生憎、ハイネは神とやらを信じていないし、それは彼女も同じだった。 では、その命は誰にささげるのだ? ハイネに言われて始めて気がついたその点について彼女は慌てて本を開こうとする。そんな彼女を手で制止させて驚いたような表情をした彼女を見てから、ハイネは言葉を続けた。
「ささげる相手がいないのに、死ぬだけ死んで。それで世界が救われなかったら無駄だろ」
せっかく生きている命なのに…。 その言葉は戦場であるそこでは酷くリアルに聞こえる。そうだ、無駄にできる命など一つもありはしないのだ。 緑の瞳と白桜の瞳が同じ高さで見つめ合う。
「だから、俺はきっとしないと思うぞ。そんなこと」
笑って言うハイネは相変わらずその手を彼女の頭の上に置き、それには納得できなかったが、彼女は質問に対しては納得したようにそうか、と呟く。でも彼女にしてみたらそっちのほうが良いかもしれない。 ハイネがいなくなって尚、ハイネの救った世界で生きていける自信が…女々しいとわかっていてもないのだから。 そして、思う。ハイネもそう思ってくれれば良いな、と。甘い期待だと分かっていても捨てられないのは愚かではないと思いたい。
「でもまぁ…マーベルのためなら惜しくはないけどな」
そんな台詞さらりと言ってのけるハイネに彼女はりんごのように顔を赤くし、下を向いた。その可愛らしさにハイネは微笑する。
今の自分には世界よりも、何よりも、きみのほうがずっと大切だから。
******************** ハイネちゃんとヒロイン。艦内の休憩室らへんで。まじめなヒロインのことだから本くらいは持ってきていそうです。
2005年03月29日(火) |
月明かりの下で【デス種】【ハイネ夢】 |
星さえ溶けるその夜に、満月はどこまでも私の後を追いかけてきた。
静まり返った満月の夜。 大きな道から一本ずれるだけで充分すぎるくらいにその喧騒は聞こえなくなる。不思議なものだ。 それでも寒いということはない。もう季節は夏へと向かっていたから。だけど息を吐いてしまうのは何か物寂しいからかもしれない。 アカデミー卒業が決まって、配属も決まった。そこはあのハイネ・ヴェステンフルスのいるところで、最初は驚いた。顔には出さなかったけれど嬉しいという気持ちも少しはあって、だけど、それを本人に伝えることはできなかった。 あくまでもそこは仕事をするところなわけだから。まじめな彼女がそう簡単に職場恋愛など認められるはずもなく、だからといって今更配属を変えてくれというわけにもいかず、前途多難な勤務が待っていることなど火を見るより明らかなことだった。 それでも、こうやってハイネを待つ時間は決して楽しくないわけじゃなくて。早く逢いたいなぁと思ってしまう自分は否めなかった。 本日、新しいパイロットなどのメンバーを入れるために本国プラントに戻ってきたホースキン隊。勿論、ハイネも一緒に戻ってきていて、それでも本部で仕事はあったらしい。 本当ならもっと早くに会いたかったと電話で言ったのはハイネだったが、明日まで待てないからやっぱり今から逢おうということになった。 待ち合わせは? と聞いた彼女に家で待っていろ、と言ったのはハイネだったが彼女はマンションの下に降りて待っていた。ハイネは夜の人ごみに彼女を出したくないらしい。守られていることを自覚しながら、自分でも防衛手段は持っているのに、と思ってしまうのはやはり素直じゃないからなのかもれないが、それでも心配してくれるということにし対して悪い気はしない。 一人微笑する。恋人と、そう呼べる関係になって既に何ヶ月かが経つが彼女にはその実感はない。その原因はそれ以前の二人と今の二人とで大きな変化が見られないからなのかもしれない。 そんなことを考えているとバッグの中で携帯電話が鳴った。その着信音はメールではなく電話だった。 ディスプレイを見てから電話にでる。少しだけ頬を緩ませながら。
「はい、もしもし」 『空、空見てみ』
互いに誰、と名乗るわけでもなく噛み合わない会話が始まった。彼女は反射的に電話の相手に問う。
「なんですか? いきなり電話してきて」 『いいから、上見てみろって』
仕方なく、言われるままに空を見上げる。すると、そこには紺色の夜空に金の星がばら撒かれていた。まるでビーズの散りばめたように、おのおのと光る星たち。 そして何よりその日は満月だった。 思わず出た言葉はありきたりな言葉だった。
「きれー…」 『だろ? マーベル、下ばっか向いてたから』 「あぁ…って、え? なんで…」
知っているのか、と続くはずだった言葉は彼女が振り返ったことによって飲まれることになった。そして違う言葉が叫ばれる。
「せ、せんぱいっ!!」 「久しぶり。マーベル」
ずっと下を向いていろいろ考えていて、電話が鳴ったときにはそちらにばかり気を取られていて彼女はハイネが来たこと気がつかなかった。 それにしてもいきなり背後になんか立たれていたら誰でもびっくりする。 驚いている彼女とは正反対にハイネは片手をあげて挨拶をしながら、彼女の反応を笑う。
「来てるなら、わざわざ携帯なんて使わなくても…」
呆れたようにそう言って彼女は携帯電話の通話終了ボタンを押し、畳んでからバッグの中に入れる。 ハイネはいつものように彼女の頭に手をたり、ポンポンと撫でる。シルバーグレイの髪の毛からは清潔そうなシャンプーの香りがした。
「驚いた顔が見たかったのさっ」 「えぇ、充分すぎるくらいに驚かされました」
明るい声のハイネと少しご立腹の少女と。拗ねる姿もまた可愛らしいと思うのは重症の証拠だろうか、とハイネは心の隅で思いながら、今は考えないでおく。 せっかくの、二人きりの時間だから。
「散歩にでも行くか」 「そうですね。月も星も綺麗ですし」
夜空に散りばめられた星たちを見上げて。それを同じように綺麗だと感じて。二人は夜の散歩に出る。
そうして、どちらともなく自然に繋がれた手は互いのぬくもりでいっぱいだった。
******************** うーわー。ハイネちゃんやってくれる! ヒロインも可愛らしくてねぇ…。
2005年03月25日(金) |
桜色の詩【デス種】【ハイネ夢】 |
ほら、見つけた。まどろみの君。
地上三階、地下一階建てのアカデミー本館の別棟。地上は図書館、地下はパソコン室となっている、アカデミーの誇る建物。 そこに置かれている本の量は並ではない。 本のジャンルは多種多様。学習資料にも充分使えるが勿論、暇つぶしにも適したまさに快適空間の文字通り。用があってもなくても楽しめる、それは建物として大きな利点となる。 調べものなら地下にいけばパソコンが用意されているし、丸々一日いても決して無駄に過ごしたと思わせない、非常に便利な建物。また来よう、と無意識に思うのも無理はない。 外観はシンプルだが、立派。白を貴重とした建物はお洒落なイメージを見た者に与える。
「ん…」
うっすらと瞼を開く。それだけでいつの間にか自分は寝てたんだ、と当然のように思う。顔のすぐ近くに固い机がある。自分は一体どこで寝ていたのだろうと思いながらまだ上手くはたらかない思考を動かそうとする。 ―――――あぁ…と、しょかん……か。 どこか分かったところで安堵するようにゆっくりと息を吐いた。春の匂いが空気に混じっているような気がした。 体のあちこちが痛い。机に伏せて寝るというのは決して楽な姿勢ではない。
「あ、起きた? お姫さま?」
目の前から聞こえてきた声に一瞬、肩を震わせる。最近聞いたばかりの声だが、覚醒していない頭では誰かが分からない。そっと、顔を上げる。頭が少し重い。 視界に鮮やかなオレンジの髪と緑の瞳が入ってきた。
「ぇ…? ぅ、うわっ! ヴェ、ヴェステンフルス先輩っ?!」
思わず椅子から立ち上がり、叫んでしまった。場所が図書館だということも忘れて。口元に手を当て、反省の色を見せるが、今更遅い。 頭に手を当てて溜息をついたあと、彼女は急いで片づけを始め、早足で図書館を出る。そのあとを当然のようにハイネはついていく。 扉が開くエア音がやけに新鮮に聞こえて、次の瞬間には春の暖かい風が頬を滑っていた。もう少し、図書館にいたかったと彼女は思う。
「どうしてついてくるんですか?」
いい加減にして欲しいというニュアンスをこめて。振り返りながら彼女はハイネに強い口調で言う。
「気になるから」 「はぁ?」
何を言うのだろうか、目の前オレンジの髪の人は。よく分からない人。
「じゃぁなんで卒業したこの学校に?」 「教官として呼ばれたから」
先日ハイネが来た彼女のとった講座というのは最初、別の卒業生が来る予定だったらしいが、その人が急遽召集されたらしくハイネが来ることになった。 だから、本当にハイネが教官として呼ばれるのは今日の講座だったということだ。 ハイネはその講座が終わった後彼女を探し、図書館で見つけたという。
「一緒にいたくないんですけど」 「冷たいなー」
言葉とは裏腹に笑ってハイネは言う。 そんなハイネと一緒に歩くなど、恋人でもないのにしたくはない。だいたいそうする理由がどこにもないのだから。 しかし、どうせこれ以上何を言っても無駄だろうと判断した彼女は賢明だろう。後ろを歩かれるのも不自然なので、大人しくハイネの隣を歩くことにした。視線が集まってしまうのはこの際気にしない。
「あんなところで寝ちゃうなんて、珍しいんじゃない?」 「うん。昨日ちょっと寝たの遅かったから…」
左肩にかかっているハンドバックを持ち直して彼女は目をこする。そうでなくても春は眠いというのに。 真面目な彼女にしてみれば、あんなところで寝るなんて失態の他ない。そんなところをよりにもよってハイネに見られたなんて…心の中では深い、深い溜息をつく。
「戦場じゃ、寝不足は強敵だ。…失敗、するなよ?」
そんな彼女の心のうちを知ってか知らずか、ハイネは注意を施す。寝不足で一つ判断を誤っただけで戦場では大きな犠牲を払わねばならぬことだってある。 だからといって、充分な睡眠が約束されているわけでもない。本当に強敵である。
「失敗なんてしないもん」 「そうだな、マーベルは頑張り屋さんだから」
そう言って彼女の頭をポンポンと叩く。
「だから、そうやって子ども扱いしないでください」
白桜色の瞳がハイネを睨む。 それをちゃんと聞いているのかどうか彼女には分からない。だけど、ハイネはそれを受け流すように頭をくしゃくしゃとやる。シルバーグレイの髪の毛が小刻みに彼の指の間で揺れる。
「苦しくなったらいつでも言えば良い。傍にいてやるから」
どこでも優しいその言葉に彼女はハイネを頼ってしまいそうな自分に気が付いていた。 二人が恋人になるのも、そう遠くないかもしれない。
桜が舞うよ。まるで二人の幸せを願うように。
******************** まだ恋人同士ではありませんよー。まぁこの二人はそのラインも微妙でしょうけれども。
2005年03月22日(火) |
sham battle【デス種】【ハイネ夢】 |
キン、キンと銀色に光るナイフが擦れ合う音が響いた。
あっさりと勝敗はついた。 目の前にいるのはシルバーグレイのふわふわした、いかにも戦場には不釣合いであろう雰囲気のある少女。白桜色をした瞳はしっかりとハイネを睨んでいた。しかし、うっすらと涙を浮かべているような瞳に睨まれて余裕がなくなるほどハイネも実戦経験がないわけではない。 恐らく根っからまじめで、頑張り屋で、負けず嫌いの少女なのだろう。 彼女の細い首筋には模擬戦闘用の銀に光るナイフ。ハイネは右手でそれを持ち、左手は彼女の顔のすぐ横においてある。華奢な彼女は今、ハイネの下にいた。 彼女の顔は悔しさや屈辱で歪んでいる。瞳を見る限りでは、泣きたいのだろうけれど懸命にこらえている様子が伺える。 ―――――…筋は悪くない。オペレーターじゃもったいないか? そんなことを考えながら彼女を見る。努力の跡も充分に見られているし、ミスもなかった。今回の結果は実戦経験の差と男女の差、というところだろうか。後者はともかく前者は慣れてしまえば問題ない。 ハイネ自身、容赦はしなかった。その代わりに力押しはしなかった。間違っても相手は女の子だ。彼女にもそれがわかっているからなお悔しいのだろう。 戦場で敵がそんなことを考慮してくれるとは思わないし、むしろそこにつけ込んでくるだろうがそれは今後の練習で何とかなる。
「これで分かっただろう?」 「何が、ですか」
少しだけ声が震えている。余ほど怖かったのであろうか。しかしそれでは軍人など務まらない。彼女にもそれは分かっていた。だからこそ、涙を流さないようにしているのだ。 それでもまっすぐな瞳の中に隠された意志は消えない。どこまでも貪欲に強さを求める人間の瞳だった。
「【冷静な判断】をするだけじゃ駄目だ。そこから【行動】に移せなければ意味がない」 「……」
首筋に未だ冷たい感触を伴ったまま。涙目なのに、それでも刺すようにハイネを睨む彼女。彼女自身、勝てる自信があった、といえば嘘になる。現役軍人だ。明らかに戦闘数が違う。でも、負ける気など少しもなかった。 負けた理由を相手が軍人だから、とか男だから、とか実践数が違うとか、そんなことにはしたくない。それは言い訳だ。実際の敗因など言わずと知れている。 実力の差、でしかない。 睨まれていることを自覚しながらもハイネは言葉を紡ぐ。
「実際に今、君がここから起き上がるためにはこのナイフと俺を上手く交わさなければならない。だが、そう【判断】することはできてもそれを【行動】には移せないだろう」 「…っ!!」
彼女を下にしたまま。 首筋のナイフは頚動脈のあたりにぴたりと添えてある。今この手にあるのは模擬用のナイフ。それでも殺ろうと思って殺れないことはない。 今この時。彼女の生殺与奪を握っているのが自分だと思うとどうしようもないくらいに興奮する。 実践でもこんな感覚なかったことなのに、とハイネは思う。そして微笑を浮かべて言葉を紡ぐ。少し嫌なやつになった気分だ。
「まじめそうなマーベルのことだから、実践でやったほうが身につくだろ?」 「勝手に呼び捨てにしないでください。そして早くどいでください」
本当は命令したいのであろう気持ちを抑えて彼女は見上げてハイネに言う。睨まれているのに何故か危機感を覚えない自分は既に重症だと知る。 まだまだ彼女を挑発させるような言葉はたくさんあったし、名残惜しい気もしなくはかったが、仕方なくハイネは彼女の上から退いた。自身もわりとその体勢というのは辛かったから。 それにいくら模擬戦闘といってもいい加減解放してあげなければ彼女が可哀相だ。自分の気持ちも考慮すれば少しだけ、だけど。
「ありがとう、ございました……ヴァステンフルス先輩」
起き上がった彼女は最初にお礼を述べた。やはりハイネの想像通り、まじめで律儀な少女だった。 頭を下げれば髪の毛も重力に遵って垂れ下がる。天井についている蛍光灯に反射して光っているようにも見えた。
「ハ、イ、ネ」 「は…?」 「ハイネって呼べよ」
先程の模擬線とは裏腹の穏やかな笑顔でハイネは言う。高さ的に丁度良いとされる頭を上げた彼女の頭手を置きながら、ついでにポンポンとたたく。 本人は不服そうな顔をしていて、それがまたおもしろかった。
「そんな堅っ苦しいの俺、苦手だから」 「…そうですか」
明るい声のハイネとは対照的に、抑揚のない声で返事をする彼女。再び言葉を紡ごうとする彼女はしっかりと顔を上げて微笑みながらこう言った。
「それを意見として【認める】ことはできますが【了承】はできません」
それが彼女のささやかな最後の抵抗だった。 どこまでも反抗してくる彼女にハイネは、無意識に口端をあげて笑っていた。
******************** 模擬戦闘中に押し倒すっていうのは事故なのでしょうかねぇ。 そして、ハイネちゃんが微妙にサディスト…? まぁ良いや。そんなハイネちゃんも好きだから。
2005年03月19日(土) |
焔のついた瞳【デス種】【ハイネ夢】 |
まっすぐなその瞳に強い意志が宿る瞬間を見た気がした。
今日の講座にあのハイネ・ヴェステンフルスが来る、という噂はあっという間に広がった。何でも急のお出ましとかで。もともとは違う人が来るはずだった特殊講座だった。 卒業生、つまりは現役軍人が来ることはそんなに珍しいことではないが、その講座をとっていない人の中に嘆く女の子が多いらしいとかなんとで。 しかし、そんなことに一切興味のないシルバーグレイの緩やかなウェーブのかかった髪の人はスタスタと廊下を歩き、みなの噂するその講座の教室へと向かった。 たまたまその講座を取っていたわけではない。軍人になるものとして、当然のようにスケジュールに入れていただけだった。ただ、気持ちの上では生の軍人の声が聞けるという意味で楽しみな部分もあった。 窓側の前のほうに座る。風が気持ち良い。 桜はまだ咲いてはいないがちらほらと莟がある。暦の上ではもうだいぶ前か春だった。
「初めまして。俺はハイネ・ヴェステンフルスだ」
事務員らしき人に案内され、受講の最初に簡単な挨拶がされた。初めはオレンジの髪だなぁくらいしか印象には残らなかった。 自分に実践が向いていないことは随分前から分かっていたことだった。それでも何か、プラントを守るために役に立ちたいと思った彼女はオペレーターなら自分にもできるのではないかと思っていた。 だから、パイロットであるハイネの話は心密かに楽しみにしていた。 実際のところ今回ハイネが来た彼女の取った講座というのはパイロットと情報工作員向けのものだった。知識が広いことは悪いことではない。オペレーター志望だからといって実践演習の講座を取ってはいけない、という規定はない。
「要するに個々の能力が高いだけじゃ駄目だ。力だけでなく……」
深い緑の瞳が真剣に講座をする。実際戦場に出ていた人というのは言うことが違う。感心しながら彼女はハイネの話を聞く。 シルバーグレイの髪がサラサラと風に揺れる。 ハイネは講義をしながら生徒を見回す。パイロットと情報工作員ということだけあって、男子生徒が多いのは来る前から分かっていたことだった。しかし、その中でも少しだが女子生徒というのはいるもので。話をしながら名簿で名前などを確認していく。
「じゃぁ、そこの君」
そう言ってハイネはたまたま視界に入った彼女を指した。彼女は静かにはい、とだけ返事をしてその場に立ち上がる。
「戦場において、一番大切なものはなんだと思う?」 「……どんな局面でも、冷静に判断できること…ですか」 「まぁ、間違いではないな。……君、どこ志望?」
間違いではない、その言い方が彼女の勘に触る。だったら正解とは何なのか。そう聞きたかったが疑問が飛んできたので仕方なくそれに答える。
「オペレーターです」
背筋をピンと張ってまっすぐな白桜の瞳でハイネを見て彼女は言った。
「講義、一応パイロットと情報工作員向けなんだが」 「ですが、特殊講義は配属希望に関係なくひろく受講希望者を…」 「どこにでも本音と建前はある」
その言い方が彼女を挑発しているようにも思える。
「………」 「もう座っていいぞ」
そう言ったハイネの顔が何故か微笑しているように思えた彼女は納得のいかないまま着席しようとする。 不服だからといってここで反論するほど彼女も馬鹿ではない。
「あぁ最後に…」
座りかけた彼女はかけられた言葉にふと顔を上げる。それと同時にシルバーグレイの髪の毛が艶やかに揺れた。
「スリーサイズは?」 「ぇ…あ、…って、えぇ?! ちょっ…」
そのまま座らず、立ち上がって慌てる。危うく言いそうになった自分が恥ずかしいが何よりこんなところでそんなことを聞いてくるハイネに腹が立った。 しかし、そんな彼女とは反対に教団に立つハイネは喉の奥で笑いをこらえようと口元に手を当てる。漏れてくる笑い声が彼女の怒りを更に増幅させる。
「あはは。冗談だよ」 「あ、あたりまえですっ!」
真剣な表情で半ば怒るような形でハイネにそう言い放ち、彼女はその場に座った。ハイネの印象は彼女の中でマイナスに突入するほどの勢いだった。
彼女が不機嫌なまま講習は終わった。話自体はためになったと彼女もそれは心の中で認めているが、個人としては気に入らない。 だったら彼女がとる行動は一つだ。納得がいかないのなら、納得いくまで食いつくまで。
「『戦場において、一番大切なものはなんだと思う?』」
目の前にいるのはオレンジの髪の人。彼女の言葉に振り返り、緑の瞳に彼女を映し出す。 ハイネの周りにはこの講座をおそらくたまたま取っていた数名の女子がいたが、彼女はそんなことを気にはしていなかった。
「は…?」 「あなたの言葉です」
左肩にハンドバックをかけながら彼女は自分よりも背の高いハイネを見て、ハッキリと言う。 ハイネはまさか彼女がそんなことを言ってくるとは思わなかったので驚きながら彼女の言葉を聞く。
「あなたは先程私の答えを【間違いではない】と仰いました。では【正解】は何ですか」
あのままでは納得がいかない。自分が間違えたことを恥だとは思わない。同じことを繰り返さなければそれは学習だから。 しかし、間違えた後、それを間違えだと知っている人が教え導かなければ人はまた同じ間違いを繰り返す。そして、戦場ではそれだって命を落としてしまう原因にすらなる。 だからハイネの口から聞きたいと思った。あれが【正解】でないのなら【何が】正解なのか。
「君…マーベル・ロックライ、だったね」 「はい」
どうして名前を知っているのだろうか、とも思ったがハイネが手に持つ名簿を見ればそれも納得がいく。だから素直に返事をした。 ハイネが体ごとこちらに向けて彼女の体を上から下まで顎に手を当てたまま見る。
「今から講習は?」 「……本日はこれが最後です」
それが自分の質問に何か関係があるのかないのか、彼女には分からなかった。それでも答えたのは時間があればそれを説く彼の考えが分かるかもしれない、と思ったからだった。
「よしっ。模擬戦闘、するぞ」
何故かやる気満々で、決定事項のように言われたその言葉。
「えっ…な、ちょっと……」 「答え、欲しいんだろう」
戸惑う彼女にハイネは口端を上げながら言う。 そう、それはまるで新しい玩具を見つけた、子供特有な無邪気で残忍な表情だった。
彼女に拒否権は―――勿論のようになかった。
******************** ヒロインデフォルト名:マーベル・ロックライ/MS通信管制を担当/緑の服/少々頭が固い/ハイネにからかわれ遊ばれる/白桜の瞳/シルバーグレイのウェーブかかった髪/第2次ヤキン・ドゥーエ攻防戦ではホーキンス隊/しっかり者/マニュアルは持っているが緊急事態に弱い/急展開とかで慌ててしまう
こんな感じで。 焔のついた瞳というのはマーベルのことです。実践で自分は役に立たなくとも他のところで頑張ろうとする彼女にはその強い意思白桜色の瞳に宿っているのではないか、と思いましてね…。
これは私的脳内ハイネ祭期間:三月十九日〜四月六日[当方は一種間遅れでデス種放送]に書いたものです。以下ハイネ同様。
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