☆空想代理日記☆
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「それは机上の空論だよ」
という言葉を相手に人差し指を向けて格好よく言いたい欲求にかられ、昨日はチャンスを窺っていた。
前述部分はまったくの嘘である。 昨日は、今月いっぱいまで使用することができる割引券を持っていたので映画館にでも行こうと思った。全裸にマントをまとい、王冠をかぶって行こうと思った。
しかし映画館にはたくさんの危険がひそんでいる。暗闇の密室では何がおきても不思議ではないのだった。
不逞者がたまたま座った椅子の両サイドに女性が座るかもしれない。なぜ両サイドに、と訝しく不逞者は思うかもしれないが、緊張をまぎらわすためにたくさん喋りかけた。
が、相手が中国人という劇的な結末があるかもしれないのである。
ここでひとつ問題なのは、不逞者の言葉が理解できない人がなぜ映画を観にきたのかである。黒いにおいがする物品の取引を暗闇でおこなうためだったのだろうか。
唯一喋ることができる日本語が「お前を蝋人形にしてやろうか?」だったらどういう対応をすればよいのだろうか。
このようなことがいつ自分の身に降りかかるかわからないのである。
先日、テレビ番組で賑やかなおじさんのオススメする品物を購入したことがあった。
ジャパネット産のデジカメのことである。
これまでの不逞者、使い捨てカメラをつかっていた。だが自分の手で捨てたことがないカメラなのだった。というか、カメラを捨てるなんて度胸なぞ持ち合わせていない微弱な生物なのである。
そして昨日はデジカメと激しい格闘をした。
小さなテレビを扱っているような錯覚もあったし、画面を触れないようにしている姿があたかも仔猫を掌にちょこんとのせているようでもあった。
初めて触れる機械に不逞者は怖じ気づいた。説明書があったが、なかなか分厚くて読む気がまったくおきなかった。
適当にピコピコいじくっていると、勝手に撮影してしまった。
大福をつまみ喰いというよりはつかみ喰いしているマードレの犯行現場をばっちり撮影していた。パードレがトイレで便器外汚染した証拠をがっちり撮影したのだった。
これをネタにゆすろうと問い詰めたところを逆に撮影されてしまった。家族がそれぞれの弱味を握る『脅迫家族』なのであった。
昨日は空が低く雲が灰色だった。不逞者の心臓と同じ色ではないかと思った。しかし、レントゲンに写っていた心臓は白かった。
多種類のカラーの話題ついでに、昨日はドコモショップへ行ったという出来事がある。
各メーカーから新機種が続々と出たのだそうだ。そこらへんは無頓着なので、とりあえず戒律をぶち破ることを生き甲斐としている修行僧のような気持ちで行った。
店内はひどく混雑していた。それぞれの窓口に行列ができていて、真剣に悩んでいる人や笑顔の人がいた。なんとなくあの世の裁判のように感じられた。
さしずめ、店員さんはあの世の門番のようである。
「あなたのポイントは、うーん、100しかないですね。では、地獄へ」
みたいなことを真顔で言っているのではないかと思った。
不逞者は携帯電話を購入しにいったわけではなく、単なる冷やかしなのだった。行列にもつかず新機種をあらゆる角度から眺めていた。
「お客様。こちらへどうぞ」
と何度も言われたが、「あはは。うふふ」と不気味な表情をつくってうまく逃れたのだった。
地球はすっかり冬支度をはじめてしまったようで、夜は凍てつくように寒かった。つまりは、『いてつくはどう』を背後からくらわされたようだった。
ということで、夜は鍋にしようと思った。それも淋しい独り鍋である。
少年ジャンプやらマガジンを並べて、たくさんの人と鍋をつついている想像をしながら喰べることにした。どのような味付けをほどこしても、塩味になるのだった。
その泪味の鍋は、まるでウォーターベッドの中で泳いでいるような感じだった。夢心地とはこんなものかと不逞者は感心した。
煮えすぎない白菜の食感はシャキシャキというよりは「シャヌフン」みたいだったし、死にたての魚は弾力があって「グァムグァム」みたいだった。
お手製のつくねは、ヴァンパイアなら壁をかきむしりながら眼玉が飛び出そうなくらいニンニクを入れてしまった。吐く息が黄色くないかと気になった。
こうして冬のはじまりに独り鍋を成功させたので、今シーズンはなにがあっても耐えられそうだった。たとえば、バスの中で他人の傘の先からしたたる水が不逞者の足にかかっても耐えられる自信がついた。
昨日はものすごく天気がよかった。したがって、まぬけ根性の不逞者はトレーニングをしなければならなかった。
不逞者が通っているジムは駅の近くにあるのであるが、周りにはいろんな店があって、『誘惑ステーション』と勝手に呼んでいるのである。
たとえば、肩にバッグをかついだまま古本屋にも行くことができる。だが、通路がそんなに広いわけではないので、人と人の間を躰がすり抜けてもバッグが立ち読みしている人をぶっ飛ばしてしまうのだった。
飛ばされてしまった人は、3mの空中散歩ののちゴロゴロと後転を8回くらいするのだった。
「あ! すみません」
と不逞者が言っても、たぶん最初の「あ!」しか聴こえていないのだろうと思える。
少しだけ人相の悪い不逞者の「あ!」は、おそらく飛ばされた人の気持ちになってみると、「あ!」と威嚇されたと思うかもしれないのだった。
なので古本屋には立ち寄らず、そこからスキップを500回したところにあるとんかつ屋さんに寄った。トレーニング前に満腹にしてはいけないとは思いつつも、口の中では豚の肉がバリバリ噛まれていたのだった。
いつだったかに摂取したアルコールも頭のてっぺんあたりから吸い取られたように抜けた。ひじょうにすっきりとした朝をむかえることができた。
それから昨日はドライブごっこをして遊んだ。横に並ぶ自動車や対向車に犬がのっているのを何度も目撃した。
不逞者も同じように窓に手をおいて顔面を外に出した。犬は、舌をゆらゆらさせながら「貴様のスネを咬ませろ!」という意気込みで睨んできた。おしっこまでビビってしまった。
それから久しぶりにケンタッキーを襲撃した。自動車で店のまわりをぐるぐるまわり、大声でチキンを要求したのだった。
アルバイト店員らしき女性は、AMラジオの気象予報なみのか細い声で応対した。そして何度も不逞者の要求したものを繰り返した。
スピーカーのところで繰り返したし、品物を受け取る前にも繰り返した。スピーカーなどつかわずに専用窓口にアルバイト店員が座っていれば、もっと効率があがると思った。
湯気のたつチキンは眼に毒だった。しかし不思議と嬉しいのだった。だから、あらゆる角度から携帯電話で撮影しまくったのだった。
実は昨日の不逞者は具合が悪かった。ほのかに風邪の疑いが頭と右足の小指あたりをかすめた。
風邪だった場合、外の空気を肺いっぱいに吸うことが有効な手段だと考えられた。
太陽が照っていて気持ちよかった。なんかいい感じの休日である。イチョウの葉が散り落ち、秋の絨毯のようにも感じられた。
が、しかし、陽光の照り返しがきつく、すべてが黄色かった。何もしないで立っていたら、全身が黄色に染まってしまいそうな勢いがあった。なので、早々に退散した。
鈍器のようなもので頭部を潰されてしまったような痛みがあったし、吐き気がひどかった。
なにかの作業に没頭して気を紛らわせようと不逞者は思った。
架空生物の麒麟が描かれている空き缶や中がからっぽになった緑色の角瓶などを片付けた。なんでも、角瓶のなかには焼酎と呼ばれる魔法の水が入っていたそうだ。
でも、その魔法の水は不逞者の華麗なマジックによって胃のなかに流しこめられた。相変わらずマジックは冴えていた。
この季節の風邪はこじらせると大変なんだそうで、不逞者は二日酔いによく効く薬を飲んだ。
昨日は、背後から迫りくる寒波から逃げるように映画館へ行った。バスの後ろからロープでひきずられるようにして行った。
何を観るのかを決めずに行ってしまったため、上映開始時間がわからないのだった。
上映している途中から入ってしまった場合、青白く顔面が光っている生物が並んでいることが稀に目撃できる。
そして、最前列に座高がものすごい高い男性、後ろの人は前が視づらそうに首をにょきっと伸ばしている。さらに後ろの人も首を伸ばしていて、1列全員が首を伸ばしていた。という奇跡的に出来あがる横型トーテムポールを発見することもあるのだった。
が、今回は誰もいなかった。高校の時の後輩や友人の母親もいなかった。本日限定の貸し切りのようだった。
両足をあげ、腕は限界まで広げて座った。椅子に座りながら、ドラム缶にお尻からはまってしまったような座り方であった。
不逞者だけだったので、お菓子をばりばり喰べて周りに雑音を振り撒く人や咳払いをする人やワラ人形で呪いを成就するような人がおらず、とても静かだった。
まるでそこは「クワイエットルーム」のようだった
昨日も天候はすぐれなかったので、心を落ち着かせるために、いつも不逞者が贔屓にしているクラシック専門店に行った。
相変わらず店長は奇抜なヘアスタイルだった。たとえるなら、時給900円で家に帰ると缶ビールを呑みながら「はあ、生まれかわりたい」とか言ってそうなクリボーのようである。
クリボー店長のことを詳しく説明すると、常に酸っぱいものを口に含んでいるような顔面の構造で、「3度の浮気よりクラシック」が口癖なのだった。
店内を散策した。 不逞者はオペラが好きなのであるが、最近話題になっている美人ピアニストが気になって仕方がないのである。
それをクリボー店長との雑談中に話したところ、
「ぼくはねえ、あの瞳を視ているだけで、ご飯が3杯喰べられますよ」
と言って笑っていた。 笑うとゴルバチョフ書記長みたいな顔に視えた。
結局、ピアノは不逞者の守備範囲ではないので何も買わずに店を出た。
店の外からクリボー店長を観察していると、店内はクラシックがかかっているのに激しくリズムにのっていた。巨大なうまい棒が揺れているようだった。
昨日の空事情は大荒れだったのか、人間たちを困らせていた。
近所にある浄水場からは殺人サイレンが朝早くから鳴り響いていた。最強の目醒まし時計のようだった。
ただ、この時計はたいへん凄まじい威力をもっていた。ゴミをついばむためにやってきた鳥たちがいっせいに飛び立ち、空が暗くなった。
不逞者、浄水場のほうへ向かってみた。浄水場まではゆるやかな下り坂になっており、少しだけ小走りになった。
すると浄水場らへんからドドドッという音が地面を揺らしていた。しばらく視ていると地面がうねり、波をうっているように視えた。
どうやら、どこかに潜んでいたネズミが大移動したようである。その大群が不逞者に一直線に向かってきたのだった。
身の危険を感じた不逞者は回れ右をして走りだした。だが、ネズミの大群はものすごい速さで追いかけてくる。
手をバタバタさせて舌を出したまま死に物狂いで走った。ネズミに咬まれると悪い病気にかかって死んでしまうというのをどこかで読んだ記憶があったからだった。
ある建物のなかに避難した。そこは、不逞者がよく行く図書館だった。
ついに不逞者の住んでいる土地にも冬がやってきた。窓外の景色は、道路や家々や登校中の小学生の頭のうえにちらちらと白いものが積もっていて、まぎれもなく雪であった。
だが、砂糖景色とも考えられた。誰か知らない頭がどうかしている人が夜な夜なこっそりと砂糖をばらまいていたのではないかと思った。
とりあえず不逞者、スプーン片手に外へ出てみた。砂糖かどうかを調査するためだった。が、あまりの寒さに5秒で引き返した。
それはともかく、昨日は業務スーパーと呼ばれる場所に行った。そこは業務スーパーという名前かどうかはわからない。本当は違う、もっと近代的な店名かもしれないが、面倒くさいので業務スーパーなのだった。
さすがは業務用のものが置いてあるだけあって、すべてがジャイアンサイズだった。
まるい箱のアイスクリームなんかは、アメリカ人の少年が胸に抱きかかえながら喰べているものに視えた。
ひと口喰べるたびに「フリーダム!」とか叫んでしまえそうだった。ただ、不逞者がそれを胸に抱きかかえると、笛を吹き鳴らしながら太鼓を叩く猿人形のようである。
昨日は格闘技の練習日であった。空が青いうちに鼻歌をうたいながらジムへ行った。「あの空の果てまでぇ 手を離さないでぇ」とかいう歌をふふふんだけでうたった。
練習のあとは、いつも寄るラーメン屋に行った。
表情は暗いが眼だけはぎらついているアルバイト店員がいた。
その店員からは夢の大きさが感じられた。たぶん、カラオケに行ったあとは「オレ、やっぱり歌手になりてぇ」とか呟きながら6畳1間の部屋でオーディション雑誌やバンドメンバー募集記事を探しているはずである。
または、料理長の技法を横目で盗み、「いつか、オレも。日本一のラーメンをつくったる」という思いを胸に秘めながらレジのお金を少しずつくすねているのだろうと思った。
不逞者はこのような若者に成功してもらいたいと強く思った。そしてまた次世代の若者に夢を与えることができる人間になって欲しいとも思った。
このラーメン屋はいつしか「夢工房」とか呼ばれるようになり、全国から若者が集まるようになるはずだ。その受付係を不逞者がしている。夢を叶えたい人の夢を叶える人の受付係をする夢を不逞者は叶えるのだった。
テレ朝ナイトドラマの『モップガール』のモップの部分がおざなりにされているような気がしていて、なんとなくやる気が起きない1日だった。
というのはたんなる蜂蜜にふりかけをぶちまけたようなおかしな考えで、ひなたぼっこをしながら適当に思っていただけのことだった。
それというのも、昨日は天候にめぐまれていて、休日だったので庭先でひなたぼっこをしていたのである。
そこへ久々に『るのあ〜る』と『ぴっける』がやってきた。
お互いの肩を擦りつけるように寄り添いながらこちらへやってきた。
久々の再会に不逞者、ミルクを深い皿に入れて与えた。野生猫たちは「ミャアミャア」騒ぎながらペロペロとミルクを味わっていた。
鼻の頭を白くした野生猫は不逞者に向かって「これは、罠だったのか!」と叫んだ。当然、嘘である。
これからもっと寒い季節になるので、不逞者は野生猫たちの背中にネギをくくりつけた。
たぶん、ナイアガラの滝のような髪型で家のない人たちが「猫がネギをしょってやってきた」と言って、茶碗や鍋を箸で叩いて喜ぶのだろうと予測できる。
「そ、そんなわけ、あるわけがない!」
この一言で、昨日は終わりを告げた。というのはたった今考えた嘘である。
たまたま寄ったコンビニに指名手配書が貼ってあった。そのなかのひとつに、髪型と眉毛と目と鼻と口をすり替えたら友人である『2B眉毛』君にそっくりであった。
それを2B眉毛君に報告したところ、あのセリフがトゲと毒をプラスして不逞者に浴びせられたのだった。
それから昨日は病院へ行かなければならない日だった。
バスに乗った時間帯がまずかったらしく、高校生がたくさん乗っていた。
女子高生の笑い声やひそひそ話がバス中を占拠していた。それらすべてが不逞者に向けられているかもしれないなどと、日頃のおこないを棚にあげて自意識過剰になってみたのだった。
ちょっとした海外スターのような気持ちで病院内に入った。想像では、カメラのフラッシュが無数に焚かれているはずが、実際は看護師さんの白い眼が光っていただけだった。
診察のほうは順調であった。どうやら体調のほうは良くなっているらしい。たぶん、ある寒い日にお地蔵さんに笠をかぶせてあげたからだろうか。
昨日は、雨のち晴れのち雨のち外出のち帰宅の1日だった。
外出といえば昨日は、鶏肉を専門的に扱う飲食店へ行った。
入口すぐにある足首まで埋まりそうな柔らかい足マットを踏んだけで店員さんから怒られてしまいそうな雰囲気があった。なんだか高級感の漂う洋服屋さんに来てしまったような錯覚をおこした。
画竜点睛を欠いている不逞者はやはり店内の隅のほうへ追いやられ、とても淋しい気持ちだった。
その、旅館でいったら布団部屋のような席の近くに、3人組のおばさんがやってきた。その時に交わされた店員とおばさんたちの会話を抜粋してみる。
「これは、何切れくらいあるの?」
メニューのひとつに指をさして訊ねた。
「はい。こちらが通常の1枚となっておりまして、こちらは、そうですねえ、8切れくらいになります」 「あらー! だったら3で割り切れないわね。うーん」
このような感じであった。しかも、言い出したおばさんが、「私、最近2キロ痩せたから、多く喰べてもいいかしら?」とかなんとか勝手に話を進めていた。
不逞者は鼻歌をうたいながら、耳だけを傾けていた。
朝夕かかさない不逞者のお祈りによって、昨日は底抜けな晴天であった。
散歩日和の地球をふらふらと歩いた。横切る自動車には様々なものが貼ってあった。
たとえば、定番である『赤ちゃんが乗っています』というのが目立った。ダントツの1番人気の札のようだった。
だが、たまにおかしなものも混ざっていた。『今は! 彼氏はいません』や『赤ちゃんも運転してます』もあった。
こんなことはどうでもよくて、昨日の不逞者は悩んでいたのだった。
今年の夏に結婚した『髪切り般若』君のことについてだった。
彼は来年にも自分の店をだすために、自宅兼店舗を建てているのだそうだ。しかし、その費用が思いのほか高くつくようで、結婚式は執り行わないそうなのだ。
それでは淋しいだろうと思い、新年会を利用したお祝いを企画することになったのであるが、まだ誰にも連絡をしてないのである。
ここ数日、携帯電話を前に置いて悩んでいるのだった。誰をよぶのかとか、いつどこでするのかも考えていない。
髪切り般若君にバレるとひじょうにまずいことになる。が、通話料がもったいなくて仕方ない。
先日、人型生物はどれだけ集中してテレビを視ることができるのかという実験の名を借りた、単なるダメ人間の練習をしていた。
しかしテレビのなかを自由にそして激しく動きまわっているキツネの生まれ変わりのようなおじさんに心を奪われてしまい、思わず感動してしまったのである。つまりは、集中力作戦の失敗を意味しているのだった。
心を奪われたままひきさがっては男がすたると思った不逞者、意味不明なクレイマーになることした。
何度も電話したが、例のおじさんではなく女性が電話にでるのだった。したがって鼻のしたがのびてしまうのだった。
ややあって冷静さを取り戻した。どんなおじさんだったかをうまく説明した。すると、不逞者の意思とはかけ離れてしまったところに話題が進行していってしまった。
あの時の感動を昨日は振り返ってみた。活字で表現したところ、催涙ガスが画面から漏れているくらいの感動、になった。
そのクレームをつける人の練習の結果、小包爆弾が宅配されることになった。
小包爆弾のなかには紙があった。保証書だった。ほかにはジャパネットのカタログも入っていた。
昨日はひじょうに寒かった。歩いている途中で凍ってしまった人や、押しボタン信号機のボタンを押したまま凍りついている人などかいた、ように視えた。
当然不逞者は普通の人より23倍ほど寒さに弱いので、頭から毛布をかぶり、だるまのようになっていた。
テレビから発せられる青白い光を眺めていた。そういえば、ホッカイロが自然発火したとかしないとかで世間が騒いでいたといないとかいう情報を、耳にしたとかしないとかだった。
いつだったかに買っておいたホッカイロが押し入れに置いてあったことを記憶の抽斗から引き当てた。
そうして押し入れのなかを探索することになった。
まねき猫やバッタの死骸や木製バットがあった。それを掻き分けるように奥へ奥へと不逞者は進んだ。
おでこが光るヘアバンドを装着して、ラブレターを渡す女性を間違えた過去のあるモグラのような気持ちでどんどん奥へと進んだ。
すると細くゆるい向かい風を頬に感じた。眼をこらすと隙間から灯りが漏れている。自然発火なのかもしれないとさらに進んだ。
その先は、自宅からしばらく行ったところにあるコンビニだった。
近頃の不逞者、原因不明のやる気が出ない病にかかってしまったようである。まるで、ケンタッキー・フライド・チキンの美味しい肉を削ぎ落とされたあとに捨てられる骨みたいだった。
骨抜きならぬ肉抜きの、つまりは『チキンボーン』の原因は実はわかっているのだった。
昨日の日曜日といえば格闘技の練習日であるのだが、朝から鉛のような雨が降っていて外出を億劫にさせていたからである。
日曜日の雨は、「ぬくぬくと生きてるんじゃねえ!」オーラがぷんぷん出ているように感じられた。
その勢いに圧倒された不逞者、部屋にあるプレステ2や積みあげられている小説の山々やどっかの川で拾ってきた化石につまづいた。
なんとか腰をあげなければと思ったが、脱ぎ捨てられたままの洋服や机の角や大きな灰皿につまづいた。
やはり不逞者は、鶏肉の旨味成分を抜き取った『チキンボーン』なのだった。
その証拠に、練習に行く時に必ず持っていくバッグをかつぐと関節がぽきぽき鳴ったのだった。ずいぶんと騒がしい関節であると思ったのだが、自分に甘い不逞者はそれを黙認し、練習には行かなかった。
昨日は多少の冷え込みが感じられたが、心優しい不逞者は2万歩ゆずって秋晴れということにしておいた。
夕方になると空はすでに夜の仮面をつけ始めており、「ギャア、ギャア」と鳴く6色ボディの怪鳥がいてもおかしくないように思えた。
イヤな予感が不逞者の胸の奥の背中をぞわぞわさせていた。ドアチャイム。ひとより少しだけ心の小さい不逞者は玄関に行くと、そこには『微笑み悪魔隊長』が立っていたのだった。
微笑み悪魔隊長は両手を後ろにやり、あきらかに何かを隠しているようだった。
いきなりカラースプレーを顔面に吹きかけられるかもしれないし、得体の知れない臭いものをつけられるかもしれない。そう思った不逞者は身構えた。
「はい、これ。好きでしょう?」
不逞者の前に出された微笑み悪魔隊長の手には、うまい棒が3本あった。
えへへ、だとか、ははあだとか適当に相槌をうっていると、
「これ、意外と美味しいから」
そう言って、たこ焼き味のうまい棒の袋を切り裂いて中身を出した。
ほら! と微笑みながら自分でがりがりかじってしまった。不逞者は唖然とするほかはなかった。
昨日も秋晴れの1日であった。秋晴れというより晴れ秋のほうが不逞者のふにゃふにゃな脳みそにしっくりとくる。
それから久々に『病巣会』が開催された。相変わらずおっちょこちょいなフランケンシュタインのような顔色をしていて、不健康が服を着てふざけているように視えた。
「バターをこっそり舐めるのがやめられない。あのカロリーががつんとくる感じがやめられないんだ」
病巣会副リーダーのパリネズミ君は、おずおずと言った。
不逞者他数名はパリネズミ君をまるく囲むように立って、心から拍手をおくった。
「ライスonライスの時代は終わりだよ。俺は、水餃子をおかずに焼き餃子を喰べるのが趣味なんだ」
これを言ったのは内科病棟で問題児だったデッドボール君である。
パリネズミ君が輪に加わり、デッドボール君を囲んで大きな拍手をおくった。
こうして『病巣会・秋の陣』は無事に成し遂げられたのだった。そしてみんなでひとりを拍手で励ますことによって、病状の悪化を素敵に無視できるのだった。
たぶん、完治しないのはこの会合のせいだと全員が気づいている。しかし、ぬるま湯は最高である。
昨日もこんがりと晴れていて気持ちのいい天気だった。自宅にいる時だけなら全裸でいたほうが南国気分を味わえるのではないかと思えるくらいだった。
夜。友人のダブルパンチ君と災害についてを、知っているかぎりの口汚い言語をつかって語り合った。ついでに焼肉店になだれ込んだ。
途中、「輝いてるオレたちは、日本の主役だ」とか言ってそうな『交差点暴走族』がいたが不逞者たちは頭のなかの焼肉に夢中だったため、完全に無視した。
店内は凄惨な光景だった。まだ年端もいかない子供が生の肉を卵の黄身と混ぜて喰べていた。その子供の姿を笑顔の大人が携帯電話で撮影していた。
また、店員さんは無表情というか心がない感じで皿にのせられた動物の肉片を運搬していた。『ハートレス店員』という渾名をつけて不逞者は喜んでいた。
そして今回のなだれの被害は、生まれて間もない鶏や牛の躰の1部分を切りとったものだった。それが不逞者の胃袋に流しこめられた。
メニューにはほにゃらら県産の肉だと明記されていた。写真には、人間たちに殺害される間際の状況が掲載されていた。
雨もあがり、太陽が「これでもかー!」と言わんばかりに張り切っていたが、昨日の不逞者は何にもしなかった。
とくに予定がなかっただけで、淋しい大人だと思われると不逞者の人間性が疑われるので言い訳しておくと、何にもしないという予定を入れていたのである。
こういう日を月に1度ほどもうけている。
だから極力声も出さないようにしていた。トイレも我慢したし、つまみ喰いもしないでおいた。ついでに指をぽきぽき鳴らすことも自粛したし、息継ぎもたまに忘れておいたのだった。
かといって一応は何かしていた。 たとえば意味もなくトイレにこもって流れる水を眺めていたり、窓辺から視える木に柿の実がなっていてそれを棒かなにかで盗もうと計画をたてた。
部屋からキッチンへ続く廊下をメキシコ産のナメクジのように熱い心で這っていき、鍋であやしげな液体をつくったりしようともした。
それにも飽きて何もすることがなくなったので、積みあげていた本をバラバラにして、もう1度積みあげたりしていた。
活字にするとものすごい淋しさを感じるのであるが、本人は実にたのしかった。
昨日は朝から雨が降っていた。勢いよく地面に叩きつけられる雨の糸は、灰色の鉄格子のように視えた。ついでに不逞者は囚人のようだと思われる。
気温が低かった。躰の芯が冷えて寒かったが、躰の芯とはどこのことなのかと悩んだ。
とりあえず不逞者は爆発大王君を誘ってラーメン屋へ行った。
このラーメン屋は少し特殊で、ラーメンそのものから憎しみみたいなものを感じるのである。それはまるで親の仇にでも会ったかのような大量のニンニクが混入しているのだった。
熱いラーメンを不逞者はビデオの早送り並みの速さで口に送りこんだ。すると、雷の影響かなにかでいきなり店内のブレーカがおちてしまい真っ暗になってしまった。
店員さんが「すみません」と言いながら素早くブレーカをあげると、爆発大王君が不逞者のラーメンからチャーシューを盗むところだった。爆発大王君はばつの悪い顔をしていた。
気をとりなおして喰べていると、またもやブレーカがおちた。
店員さんが急いで灯りをつけると、爆発大王君は不逞者の餃子を盗むところだった。ばつの悪い顔をしていた。
昨日も天候に恵まれていて上機嫌だった不逞者、散歩がてらに蕎麦屋に立ち寄った。
店内は慌ただしくて混雑していた。ナスビと人ごみが苦手な不逞者はくるりと背を向けようとしたが店員さんの爽やかな誘導に逆らえなかった。青春果汁100%のような誘導だった。
相席した男性はおじさんだった。モアイ・ザ・バーバリアンに三日三晩、練りゴマを飲ませ続けたような顔面をしていた。
よく視るとそれは、不逞者が中学生だった時の担任の先生であった。
「その人殺しみたいな笑顔は忘れられないよ」
先生はこのような冗談を言った。が、不逞者の心中はおだやかではなかった。
「先生はいまだに生徒に向かって『ビンタ50発と膝蹴り50蹴りのどちらがいい?』なんてことを言っているのかね?」
先生は表情をかたくして、ばつの悪そうな感じだった。
このように元中学生と元担任が出会ってもろくなことがないのだった。思い出話に花が咲くというよりも、思い出話に毒を盛ってしまったようになるのだった。
2人揃って時間を気にし、赤よりも赤い他人同士のようだった。
陽光が燦々と降りそそぐなか、昨日は不逞者日記制作委員会の金庫番であるキー坊君の家に突撃した。
キー坊君は相変わらずだった。親指の爪を喰べながら、「日本人の3大義務はすべてお金に関係している」などとひとりで喋っていた。
今回の突撃理由は、来年移転する不逞者の新しいホームページに関する会議であった。
キー坊君は猛り狂ったようにパソコンと格闘していた。『金と平和。愛しさと切なさとふところ加減。福沢諭吉の憂鬱』みたいなことを打ちこんでいた。
このように残念な人間なので、あまり作業が進まないのだった。キー坊君が自分の胸を叩いて「まかせろ」と言ったのに、心が折れるスピードは音速を超えているのだった。
ナメクジがバタフライ泳法しているような会議のすえ、なんとかかたちになった。
ただし、キー坊君の背中やお尻を茶色のお札でひっぱたきながら作業してもらったのは書くまでもない。
よく考えてみると、元不良の不逞者のほうがよっぽど善良であることがわかる。たぶんキー坊君はろくな死に方をしないはずであると思った。
昨日も11月とは思えない陽光のたくましさを感じたが、目醒めは最悪であった。
早朝5時くらいから不逞者の部屋の周りを独り言を喋りながらうろうろするおばあちゃんがいたからだった。
「ふぁい、ふぁい。遅刻するなよ、メロス」 「あぁーもお! だからそれは右に置いて」 「ぶたないでぇぇったらぶたないで」
みたいなことを喋っていた。 その声に起こされた不逞者、なぜこの日本には睡眠妨害する人をマシンガンで蜂の巣にしてもいい法律がないのかと唇を噛んだ。
その後もおばあちゃんはカラスに向かって「てい! てい!」と叫んでいた。
不逞者は髪の毛をかきむしりながら7色の奇声をあげそうになった。
それはともかく、以前レンタルしたDVDを返却しにいった。
大切にとっておいたプリンが無くなっていたショックを隠せないような気持ちでTSUTAYAに向かった。
不機嫌なオーラが不逞者の背中あたりからじわじわ出ていたようで、誰も近づいてこなかった。しかし、機嫌が良い時も誰も近づいてこないので結果的には自分の心の問題であった。たぶん。
昨日の不逞者は餓死してしまう危険を回避するため、近所のスーパーマーケットで万引き犯をよそおった買い物をしてきたのだった。
野菜コーナーや鮮魚コーナー、そして精肉コーナーにいたるまで寒かった。これはどんなに力強い人間であってもオシッコがしたくなるのだった。
ということでトイレへ行った。貼り紙がされていた。
『最近、故意にトイレを詰まらせる事件が多発しております。物を詰まらせるないでください』
このような内容であった。名探偵の漫画を数多く読んでいる不逞者、この事件を一瞬で解決させた。氷解するとはこのことなんだと実感した。
おそらくは赤色の味噌を詰まらせてあるのだ。たぶん中日ドラゴンズが日本一になったことで愉快犯がでてきたのであろう。
風の噂によると、中日ドラゴンズが日本一を決めてから名古屋の人たちは味噌のステーキや味噌の天ぷらを喰べているのだそうだ。
ひとつかみの味噌を空高く投げて、落ちてくる味噌を奪いあうのだそうだ。中日新聞に味噌をくるんで、適当な土地へ贈ったりするのだそうだ。
不逞者が言えることは、名古屋の皆さんごめんなさいである。
昨日は1日ということで、1が3本も並んでいた。快挙だと考えられる。
1が3本すじのように視てとることもでき、『ちびまる子ちゃんの日』と勝手に決めて友人たちにふれまわったが1ミリも浸透しなかった。
それから1日といえば月に1度、映画好きな人間をうならせる日でもあった。
そういうことで不逞者はどっかの映画館でなんとかとなんとかがボコボコ殴り合って友情を深めたりホニャララするような映画を観たのだった。
内容を詳しく書くと、なんとかかんとかがどっかからやってきて、ふふふんな感じでよっしゃーとなり、ガチッとなってバリッとしたテイストをふんだんに含んでいた。
映画が終わって出ていこうとすると、数人の若者が肩を激しく左右に振りながら威嚇して歩いていた。ものすごい影響力だと思った。
彼らはきっとしばらくの間、『オレァ、昔は悪だった症候群』になるのだろうと思う。不逞者は夕陽に向かって心からご冥福を祈る。
不逞者も小学生の頃はジャッキー・チェンの映画を観るたびにカンフーの達人の魂が乗り移っていたので、少しばかり心が痛かった。
昨日は4倍界王拳の超かめはめ波をくらう瞬間なみに眩しくていい天気だった。
朝食のトーストを魔法の箱でつくるためにキッチンへ行くとメモが置いてあった。
『そろそろアレなので、サンタクロースをつかまえに東京へ行ってきます』
自由人マードレがその自由っぷりを解放し、ついに頭が面白い感じになってしまったようだ。
それに、そろそろアレのアレの部分はクリスマスを意味しているように考察できるが、我が家にクリスマスパーティなんてものは存在しないため、アレが気になってしかたがないのだった。
たぶんマードレは芸能人を発見すると手に持っているクレープにサインをねだったり、東京タワーに向かって「よっしゃ、もう1番」とか言いながら相撲をとりにいったに違いない。
メモの続きには、『食事は冷蔵庫に置いてあります』とあったけれど、冷蔵庫にはシーチキンが1缶あるだけだった。
しかもそれは不逞者が白い野生猫『るのあ〜る』のためを思って買っておいたものなので、何もないのと同じことである。
ということで不逞者、数日後には餓死しているかもしれない。
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