「君、いい眼鏡をしているね」 「あ、そーっすか。ありがとうございま……あっ!なにすんですか!返してください!!」 「まぁまぁ。よく見えるようにしてあげるから……。えいっ!」 「わっ!あああ、レンズが……」 「これはまた見事に傷だらけだね。ほら、かけてごらんよ」 「ふざけないでくださいよ!どーすんすか、これ!」 「前よりよく見えるようになったろう。なったはずなんだよ」
「すべての家の前には畑がある」 「本当かよ。マンションでも?」 「……お前ってつまらないよな。前からそう思ってた」 「ひどいなぁ、ちょっと尋ねただけなのに」 「まあな。でも本当のことだぜ、畑のこと」
「日々たくさんのものに染まっていく」 「ほうっておくと色と色がまじりあってしまうから、毎日洗濯が大変だよ」 「それぞれの色がうまく散らばってくれるといいんだけれどな」 「なかなかそういうわけにもいかないよね」
「こないだ喫茶店でスパゲティを食べてる女がいてさ。なんとはなしにジッと見てたの」 「気持ち悪いやつだな」 「そしたら気づいたのよ。『食べる』ってのはおもしろいよね。スパゲティをフォークに巻きつけては口に運ぶ、巻きつけては運ぶ、巻きつけては運ぶ、のくり返し。同じ動作を正確に何度も何度もくり返すの。だんだんそういう機械なんじゃないかと思えてきてね」 「ははぁ」 「おれは思わず食べてたドリアを噴き出しそうになったよ」 「つまりおれたちは機械みたいなものに恋をするってわけだ」 「いやぁ、それはどうかな。むしろ、やっぱり機械じゃなかったってことで恋をするんじゃないか?」
「他人を信じるなんて、ただの怠慢じゃないか!」 「ものは言いようだよ。他人を信じないのも、怠慢といえば怠慢だぜ」 「ふん、くだらない……。そんなの子供の言葉遊びみたいなもんだ」
「そうなの?」 「うん、どうやらそうらしい」 「参ったなぁ。それじゃあこれ、もう使い物にならないよ」 「どうするよ?」 「わからん……。あいつならどうにかできるかもしれないけど」 「どうだろうね」 「でも、そう考えるしかないだろ」 「うーん。……そっちにあるの使っちゃダメなの?」 「あれはダメだよ。一度ばらしちゃったらもうどっちがどっちかわからなくなった」 「そうか。じゃ、やっぱりあいつに一度当たってみるか」 「それしかないね。あいつ今どこにいるんだろ」 「それがドイツなんだ」 「うへえ」
「好きです。愛してます」 「言いなおした」 「言いなおすよ。正確にはそう思っているんだから」 「へぇ」 「へぇ、ってどういうことだよ」 「へぇ、ってこと」 「何言ってるのか全然わからない」 「私も好き。愛してます。ってこと」
「ねぇ、ほら。見てよ」 「なんだい、これ」 「さあ……。さっき例の雑貨屋で買ってみたんだけど」 「妙な形をしているね。丸いし四角い。初めて見たよ」 「僕もさ。何に使うんだろう……」
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