意に反して
君が新しく借りる会社内の配置図を作っていた。
私は、いつも紙に書く。
昔は方眼紙に几帳面に書いていた。
君がイラストレータで作るのを見て、ああそうだった。
そのほうが手っ取り早いし正確だ。

二人で部屋や会社の間取り図を見ていたとき
何枚も笑えるものがあった。
 この部屋、どうやって入るんだろ?
玄関がない、トイレに入るドアがない。
いい加減なものがけっこうあった。

私はまた、持っている家具の大きさを測り直した。
何度も測っているのに、そのたびにメモを取るのに
そのメモは、いつもどこかに捨ててしまった。

子供の頃、一人で旅行の支度をした。
一週間前から準備して、忘れ物がないか何度も出して
また詰めた。
回数を重ねて、今では前日の夜まで用意しなくなった。
旅行慣れではないけれど、引っ越し慣れもしたようだ。
君は諸手続きを書き出したほうがいいと言う。
役所、郵便局、銀行、ガス、水道、電気、NTT。
こんなことをソラで言えるようになるなんてね。
とりあえず、もっと詳しく手帳に書き出した。

もうすぐ、また忙しくなる。
いつまで続くのかと、溜め息が出る。
君は着々と準備を進めている。
本当は、私はじっとしてるのが好きなのに。






2004年11月20日(土)

ワクワクの街
住まいになる地域の情報がほしくて、まちBBSを見た。
マイナス面ばかりに偏っていて、暗い気分になった。
大手小町を見た。
女性が様々な角度から発言している。
マイナス面、プラス面もほぼ同量。
私が出した結論は、活気があって楽しめそうな地域だ。
君に頼らなくても、自転車であちこち行ける。

空気が悪いとか、水が不味いなんてどうってことない。
幸い私は花粉症じゃないし、水は今でも浄水器を使ってる。
通学路や進学の心配をしなければいけない子供もいない。
住まいの周囲に学校や児童公園があれば、騒がしいので
私にとって悪条件。

街の様子を撮った航空写真を見た。
林立する高層ビルを眺めると、それだけでワクワクする。
コンクリートジャングルに、ヒートアイランド現象、
晴れていても灰色の空。
そんなものは、とうの昔から知っている。

ヤマからメールが来た。
住むだけで高額な家賃になるのを、私が嘆いて
ゴージャスライフを送るのは、永久にない…らしい。
と、送った返事。
 諦めるな!
 諦めたらそこで止まってしまうんだよ。
 望み続けることは大切なことだよ。
ホントにいつものことだけど、気持ちを引き立ててくれる。

私が、
 大金持ちのパトロン紹介してちょーだい
と書いたのには、
  ヤマに宝くじが当たることを祈っていて下さい。
と、ちょっとばかり他力本願だったけど。
それでも、気にかけてくれる様子が嬉しい。
  
  


2004年11月19日(金)

何を捨てようか
ここに来た時、空間に驚いた。
一人で暮らすと思ってなかったが、それでも
大きく広く嬉しかった。
一つ前の部屋に行く時、洋服箪笥二棹、和箪笥一棹
ドレッサーを処分した。
ここに来る時は、処分する必要は全くなかった。
ベッドだけ置いている部屋の大きなクローゼットは、
まだゆとりがある。

今まで何度も移転したが、女が一人で動くのは
実はとても難しい。
母子家庭なら公営住宅に入居できる。
女一人は申し込みはできても、入居の可能性はゼロ。
保証人は近親者、それも収入のある男性が基本だ。
そして在職証明。
君はこの問題を簡単に解決してくれた。

親が高齢だと、審査は難しい。
運のいいことに、私の親は現役で仕事をし、雇用される
側ではなかった。
だから、一つ前の部屋を探すとき、親のことを口にした
だけで不動産会社の態度が好意的に変わった。
君と行かないなら、私はまた親に頭を下げなければならない。
そして私は、そのつもりがない。

君と行くことにした。
悪い方向に思考を傾けず、楽しもう。
処分しようがないほどモノを持たない私だったのに
君の希望で大型テレビを購入した。
だけど見つけた部屋は、今の半分以下の空間。
そして、ひとつ前の部屋より狭い。
さぁ、今度は何を捨てようか。


2004年11月17日(水)

この先もこのままならば
私の気持ちは、ほとんど固まっている。
だけど、何故決められないかを君に話した。
君は今もこれからも会社に寝泊りする。
多忙な時はもちろん、仕事がなければないで会社に
ずっといる。

こんな男性に恋人であれ、妻であれ、その女性たちに
姿は見えない。
恋人であれば、過ごすのは数時間。
妻ならば、寝ている姿だけを見て、生活費を運んでくれる存在。
長年連れ添った夫婦なら、お互いに干渉しなくなるけれど
生身の人としての君を感じなくなる。

私が彼ではなく、君を選んだのは、しゃべる相手もなく
PCデスクに夕食を乗せ、モニターを見ながら食事する
ことに倦んだからだ。

だけど今、仕事を終えてから食事を作る気力は残っていない。
君は深夜過ぎまで、仕事を続け、まともな食事を摂らない。
君はこの先も病気や不慮の事故以外では、
このままの状態を続けるだろう。

私には休日があるけれど、君に休日の概念はなさそうだ。
君と出会う前と同様、私は一人で休日を過ごし、
どこにも行けず部屋にいる。

続けて2日休みを取れない仕事をして、人並みの給与を
貰っていた時期、私は空しくなった。
休日は、普段できない洗濯や掃除、食糧の買出しで
一日が終わった。
お金が無ければ飢えてしまうけど、あの当時の私は
生きているだけだった。
彼に会えるとは限らない。
会っても翌日の仕事が頭から離れない。


君と出会って夢を見た。
一緒に食事しようね。
一緒に出かけようね。
連休できる仕事をすればいい。
旅行に行こう。
大きな部屋だから、何も捨てずに持ってくればいい。

夢と現実は違う。
一緒に食事するということは、私が作るものを食べると
いうことで、一緒に出かけた休日は数回で、
私の休日は、やはり一人でいることだった。
旅行に行くことは忘れてしまった。
君と行くならば、今まで暮らした中で一番狭い部屋に
一人で住むことになる。
この先このままの状態が続くならば
また、生きているだけだと思いはじめている。

2004年11月16日(火)

次の場所は
フミンになろうか、トミンになろうか迷っている。
今日、久しぶりに君に話をした。
会社の移転と抱えている仕事で頭が一杯の君。
不動産会社に電話して、内見の約束をしていた。
そこには私の部屋については、一切含まれていない。
金曜から一人であれこれ探していた。
私だけが暮らす部屋だから、自分で探せということだった。
そして、事務所の移転には私がもれなくついていくものだと
決めている。
バカバカしくなった。
第二の選択肢があることをわかっていない。

フミンだった頃、部屋から街の中心部まで15分だった。
何でもある街は、何でも手に入る街と同じ意味ではない。
休みたければ、テラスカフェ。
服を見たければ、多種多様なショップ。
食事をしたければ、ホテルの最上階から出前まで、
和洋中を問わず揃っている。
ビデオを見たければ徒歩5分で借りられ、
美術館も図書館もすぐに行ける。
だけど、それはゆとりがあってこそ手に入るもの。
目の前にあるのに届かない。
無関係の世界でしかない。

トミンになれば、その数十倍の無縁の世界が
目の前に広がる。
そして手が届かない現実に、また打ちのめされる。
そして両方にあるのは、一歩横道に逸れると
オモテの健全な煌びやかさとは違った、汚濁や
退廃的な世界がある。
どうせ横目で見て通るだけなら、見知った場所がいい。

君が言う。

 戻ってどうするの?

私が答える。

 どうもしない。

この数年の目まぐるしさに疲れた。
私自身に起こった出来事、行く先々で遭遇する天変地異。
都会にいても、田舎にいても神経が休まったことはない。
穏やかに朗らかに元気に笑う。
君が望んだ姿を見せる時間が少ない。
君に嫌味を言ったり、辛辣になったりしている自分が
イヤでたまらない。
生きることに疲れた。

脈絡のない私の話をじっと聞いていた。

 どっちにするかじっくり考えたほうがいい。

そう言った後、君は電話をかけた。

 住居を探してください。

送られてきたファックスを二人で検討しているうちに
気が晴れてきた。

 ここも見てくるからね。

ここに来て、また1年足らずで、次の場所へ行く。

2004年11月15日(月)

うんざり
候補の街の様子を調べた。
危なそうな界隈があちこちにある。
夜中過ぎまで仕事をすると、帰りが心配。
知った街なら避けて通れるけど、全くわからない。
どうしてこう、何度も何度も引っ越さなければ
ならないんだろう。
ここにはいたくない。
だけど、また荷造りするのもうんざりだ。
年に1度の割合で、何度移動しただろうか。
夢や希望があっての移動じゃない。
知れば知るほどやる気が出ない。


2004年11月14日(日)

的外れ
入浴中に電話の音。
出られないときは、いつも何度鳴るか数えるのが癖。
携帯にも着信履歴、そしてメール。
こんなくどいことをするのは、誰だか決まっている。
メールを読むと意味不明な日本語。
これじゃあ、サポセンにメールできないわけだ。
前にPCメールに来た時も、こう言いたかったんだろと
拡大解釈しないといけない内容。

仕方なくこちらから電話する。
長話をされるのはイヤだったけど覚悟する。
だけど、今回は明るく取り繕えないので
そのまんまの様子をお届けした。
困惑した彼女は、言えば言うほど的外れになっていく。
助け舟を出すと、
 今月も来月も予定が詰まっていて忙しいのよ
 でもね、いつでも帰ってらっしゃいな

遠慮しますと言いたかった。
言うと二度と立ち直れなくなるらしい。
落ち込んで鬱になるらしい。
適当に返事をしてたが、だんだんイヤになってきた。
指摘するとどうなるかわからないので、黙り込んでみた。
すると、泣き出した。
 元気出して、ね?何もしてあげられないけど
 頑張ってね?

悪気が無いだけに返って持て余す。
泣きたい状態なのは、こっちのほうだと
言えばよかったかな。
的外れな慰めや、励ましをたくさんくれた。
とりあえずありがとう。




2004年11月13日(土)

眠らせて
彼からのおはようメールは来なかった。
私もそれほど期待していなかった。
PCを起動してるのに、携帯からメールしていた。
それが億劫だった。
どうしてPCからメールしないのかわからない。
携帯の小さな画面を見つめて言葉を捜すのに疲れた。

君から電話があった。
会社に戻っていた。
私の声が聞き取れないと、むっとした声を出す。
こんなふうに、なりたくてなったんじゃない。
お帰りなさい、お疲れさま。
元気な明るい声を求められても無理だ。

昨夜の辛辣なメールを彼に詫びた。
すぐに返事が来た。
でも続けられない。
何を書けばいいかわからない。
携帯の画面を見つめて指が動かない。

君が部屋に来た。
来て欲しいと言ったけど、来ると早く帰ってくれないかと
勝手なことを思った。

彼へのメール、君への言い訳。
眠りたい、眠らせて。

彼からのメールは終わり、君は行った。

2004年11月12日(金)

辛辣
毎朝、彼からメールが届く。
返事をして、途切れさせるのは私。
ゆっくり仕事をしてるから、いつでもくれていいと
言われたけれど、私から送らなくなる。

以前と同じように、彼はまだ仕事をしている。
彼だけじゃない。
ヤマもそうだし、君もそうだ。
私が知り合う男たちは、皆そうだった。

モニターの向こうに貴方がいる。
小奇麗に言うとそうなるが、夜中まで仕事をしているから
途切れ途切れの返事を待っているだけのこと。
 
 一人Hしてる?

くだらない問いかけに、返事をする。

 現実逃避には、ちょうどいいかもね

もう一度似たようなことを書いてくる。

 悪いんだけど、エロ話に合わせてる気分じゃない。
 中途半端に乗ってごめんね

熱があり頭痛がし、吐き気を堪えていると書いた
返事がこんな展開になる。
励ましたかったらしいけど、間違ってるよ。

 稼がないとね
 
 男は皆、似たようなことを言うね
 稼いでも使うヒマなんてないよね

私は辛辣に返した。
そう、夜半まで働いて、満足に食べず、
家に帰ると倒れこむように眠る毎日。
私も経験済みだけど、こんな人生のために
何の疑問もなく仕事を続ける男たち。

ねえ、なんのために生きてるの?



君から電話があった。

 もう身体、治ったろ

どうしてそんなに簡単に決め付けるの。
声が出ないのに、何度も聞き返す。
大きな声を無理やり出すと、腹が立ってきた。
私の神経を逆撫でするのが、みんな上手だね。

2004年11月11日(木)

どちらを選んでも
ヤマと彼からメール。
交互に来るメールに返事を続ける。
二人から来るメールは対照的だし、私から送るものも
全く違う。
陰と陽、軽と重、長と短。
二人に共通しているのは、私の身を案じてくれている部分。

肝心の君からは、全く連絡が無い。
だけど全然気にならない。
いつも一緒にいる君が、なぜか希薄な存在だ。
私をまるごと受け入れてくれたのは、君だけだった。
それなのにね。
以前、ある男性から頂いたメッセージを思い出した。
 私なら愛されるより、愛するほうを選びます。

愛することを選んで裏切られ、ガリガリに痩せ細り
病気になっていることも気づかずにいたあの頃。
愛されることを選んで、不健康に体重が増え
我儘放題になり、軽い病気なのに自覚症状が大きい今。
どちらにしても、情けない状態。




2004年11月10日(水)

初日 最新

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