身の程知らず
昨夜遅く君が来た。
久しぶりに会った。

 少し痩せた?

 体重は変わってないよ。


親の不機嫌の理由に気づいた。
私たちの部屋だと思っているんだろう。
違うよ。
私だけが暮らす、私の部屋だ。

君が持ってきた洗濯物を洗濯した。
乾かす暇もなく、君は東京に戻った。

君は会社の一角に折畳式ベッドを置き
銭湯に通い、食パンを齧って、毎日を送っている。

私だけのための部屋を探し、仕事をし
私を生かすために奔走している。

親は知らない。
だから不機嫌になったんだろう。
二人で暮らす部屋のために、何故自分がと。

いくつか部屋を内見して

 あの部屋は、ように合わない。

そう言って、次を探してくれた。

自分は会社の一角に寝泊りする。
懸命に働いて、私を生かそうとする。

 ようが言った条件の部屋が必ずあるから
 だから来て

私のために何軒の物件を見てくれただろう。 
あのとき、私が言ったことを覚えているから。

惨めな暮らしはしたくない。
爪に火をともすように暮らして
たった数年、生き長らえる値打ちなんてない。

私には守るべき子供はいないから。
誰かのために生きなければならないわけじゃないから。
何も欲しいものはないし、したいこともない。
だから、こんなふうに思ってしまうんだろう。

例えば、千万単位の毛皮や、億単位の宝石を見た後で
数十万の毛皮や、数万円のアクセサリーはいらない。
いっそ、何も持たないほうがまし。

私はきっと贅沢で身の程知らず。

2004年12月12日(日)

違い
プリンターの調子が悪い。
1年以上使っていなかった。

買い換えたのは、彼といたときだった。
なんのために買い換えたのか、忘れてしまった。
一緒に買いに行くことが楽しかった。
部屋に運んですぐに繋げて、彼は新しいおもちゃに
夢中だった。
楽しそうな顔を見ているのが嬉しかった。

テレビでロード・オブ・ザ・リングを観た。
君は一緒に観たとき、主人公にイライラすると言った。
邪悪なものに魅せられて、惹き込まれそうになる。
破滅しかないと理性ではわかっているのに
惑わされ、魅せられ、破滅への道を選びそうになる。
君はきっと健全なんだね。
私は吸い込まれそうな気持ちがするよ。




2004年12月11日(土)

血液製剤
彼からメールが来た。
旧ミドリ十字の、またもや薬害問題。
 ようは大丈夫?
 
厚生労働省のサイトに行って、公開された
血液製剤「フィブリノゲン」の納入先医療機関pdfを見た。
あのとき、どんな薬剤を使用されたか
引越し荷物に紛れて書類が見つからない。
だけど、数年前の術前の血液検査でも
最近の胃カメラ検査のための血液検査でも
陰性だった。

薬害エイズ問題が表面化した時も
私は引越し前で、バタバタしていた。
だけど、あの頃のような悲壮感も焦燥感もない。
あの時は新聞社にまで電話したんだっけ。
病院に電話しても、不親切でぶっきらぼうな対応だった。
今回のpdfにあったその病院のコメントも、イヤイヤ
書いたような感じ。
相変わらず、人をバカにしている。
私の医者嫌い、病院不信、役所嫌いは
この頃のせいかもしれない。
ミドリ十字のせいで製薬会社も嫌いだから
薬を飲むのも嫌いだ。





2004年12月10日(金)

きっかけ
滅多に覗かないWebメールを覗いた。
50通以上のスパムの件名を見て、何かおもしろそうな
内容がないかと何通か読んだ。
最近のスパムは凝っている。
思わず返信しそうになる内容もある。

今日もそんな1通を見つけた。
偽装されているらしいけど、ナマのメアドで
内容も普通。
そして、昔からの友人と同名で結ばれていた。

ヘッダーを見て笑った。
友人には、ありえないリモホ経由。
それにプロバイダを変えたとも聞いていない。
確かめるには、本人に電話するのが一番だ。
それに、久しぶりに話せる。

30分ほど話した。
もちろん彼女からのメールではなかった。
来週、みんなで集まるらしい。
いつも私のことが話題になると言っていた。
今度はいつ会えるかな。

あのスパムが届かなくて、
「どうしてる?」の件名に惹かれなくて
そして、友人の名前でなければ。
偶然が重なったことで、久しぶりに彼女と話す機会を得た。
スパムも、たまには役に立つ。

2004年12月09日(木)

現実
ここに来て、初めてタクシーに乗った。
行きは、60代のおしゃべり好きな運転手さん。
年配の人の話す方言を聞き取ることは
なかなか難しかったけれど、共通の話題で
君以外と、初めて話せて楽しかった。
帰りは無口な運転手さん。
見納めになる町並みを目に焼き付けた。

最も頼りたくない親に結局頼まなければ
ならなくなり、簡単に入居審査が通った。
こんな親を持つことを、本当なら喜ばなければ
ならないけれど。
予想通り、山ほど嫌味を言われた。
経済的に頼らないことが、残ったプライド。
今回は、気紛れに高額の要求をしてみた。
逆襲された。
そうでなくてもギリギリなのに、また支出が
増える結果になった。
 オマエのためにわざわざ時間を割いて
 私は動かなければならないのか。
いつもそう。
  この私が・わざわざ・動いてやっている。


帰ってきて、彼にメールした。
すぐに返事が来る。
昨夜、彼の夢を見たことを伝えた。

 どんな夢?

 楽しそうに笑ってたよ

 よかった ケンカしてなくて。


彼は君があてにならなかったのを
 
 なんだかな…

と、不満そう。
だけど、今まで実際的なことで、あてにならない
ナンバーワンは彼だった。
君は、部屋の内寸を測り、写真を撮り
仕事の合間に歩き回ってくれる。
私のライフラインであり、私の感情の波に付き合い
私を失うことを恐れる。

望む相手は、全くあてにできず
望んでくれる相手は、精一杯動いてくれ
最も接触したくない相手が、実力の上で
最上だという現実。
現実とは、こんなものかもしれない。

2004年12月08日(水)

ギャップ
友達からメールが来ていた。
電話で話したとき同様、一方的にまくし立てている
印象を受けた。
相手が知らなくても、理解できなくても
自分の言い分だけを言い通し、すっきりしたい。

内容は彼女にとっては重要で
私にとってはどうでもよいことだった。
そこでメールの内容に触れず、受けた印象を
書いたメールを送った。

すぐに返事が来た。
 どうして私の悩みがわかったの?
 ようは理解してくれたんだね。
 愚痴を言える相手ができて嬉しい。

最後の一行で、へこんだ。
私は彼女を理解したんじゃない。
彼女が告げた内容を別の表現で言い換え、
望んでいるであろうことの本質を、推測して書いただけ。

  誰でも悩みはあるし、
  (私はあなたにかまってられないから、)
  それぞれやれるだけやっていこうよ。
と、書いたつもりだった。
括弧内を汲み取って欲しかったけど、無理だったらしい。

誤解して感動したメールに返事をせずにいたら
とんでもない件名のメールが来た。
『事件』
何か大変なことが起きたかと、驚いて読んだ。
がっくりきた。
それは彼女にとっての一大事であったけど
やはり私にとってどうでもいいことだった。
誰かに言いたかったんだろう。
電話でなくてよかった。

自分が思い悩んでいる重大事は、
世間や周囲にとって瑣末なことだ。
このギャップに腹を立てたり、気づかない場合が多い。

2004年12月07日(火)

相性
その行為において、相性があるとすれば。
彼は以前、相性がいいと言った。
言われるたびに、それだけかと消沈した。
付け加えるように、性格の相性もいいと言った。
反対なら受け入れやすかった。
性格が一番で、ついでのように言われたかった。
君との行為を知ってから、彼の言葉が正しいと思った。

技術云々ではない。
愛情の多寡かもしれない。
行為の後で幸せだと、噛み締めるように言った。
何度も無意識に口にしていた。
今は、何もない。

今日、彼は言った。
誰としても満足できない。
ようとでなければ満足できない。

彼の言う「満足」が、私の言う「幸せ」だと思う。
カラダだけでなく、心から充実感を得られた行為。

抱き締められて胸が痛い。
鳩尾が詰まる。
そんな切ない想いは、彼との場合だけだと知った。

知るために、お互いが別の人との行為を経なけれ
ばならなかった。
知ったからこそ、お互いをまた求め合う。

瞬間的な充足と充実だけれど
あの感覚は忘れがたい。

私は彼を求め、彼も私を求めている。




2004年12月06日(月)

年下の友人
テレビを観ていると、Sちゃんの従兄弟が出ていた。
Sちゃんには、以前の職場でとてもお世話になった。
歳はずいぶん下だけど、色んなことを教えてもらったし
食事に行ったり、飲みに行ったりした。
今も、私の次の部屋に遊びに来るのを楽しみにしてくれ
ている。

従兄弟を見て、顔もそうだけど生真面目なところが
Sちゃんに似ているなと思った。
「芸能人になると、とたんに親戚や友人が増える」
誰でもそうだろうけど、有名人と知り合いだとか
親戚だとか言ってみたいものだから。

Sちゃんは吹聴するより、その従兄弟に負けたくない
頼りたくないと、東京に行く時も黙っていた。
 そこまで意識しなくていいんじゃない?
と、Sちゃんに言ったけど、そんな私も滅多に話さない。
Sちゃんが東京にいる従兄弟の話を、誰にも言わないで
と前置きした時、
 そういうココだけの話っていうのは、絶対にココだけの
 話にならないものだよ
と笑って、止めたんだっけ。

部屋を探しているとき、シェアする手もありだなと
浮かんだのは、Sちゃんだった。
プライベートな空間や、生活の時間帯を考えて
結局、言い出さなかったけど。
一緒に暮らすなら君よりSちゃんのほうがいいなと
思った。






2004年12月05日(日)

声の違い
彼と電話で話した。
彼は会社を辞めたので、これからますます忙しくなる。
家での様子を尋ねる。
仕事しているほうがいいらしい。
家にいるとイライラが募ると言った。

私が会いたがっているから
私を気遣って会ってもいいと言ってるなら
嬉しくないと言った。
本心を聞かせてほしいと頼んだ。
○日に会おう。
彼は、きっぱり言った。

君から電話があった。
街の様子や銭湯に行った話。
これからの展望。
荷解きの最中にいきなり仕事が入ったこと。

私の声のトーンが違う。
彼に対する話し方、声。
君と話すときのそれ。

普段何も気にせず、友達とざっくばらんに話す声が
君と話しているときの声。

恋しい相手に、胸が詰まりながら話す声が
彼と話しているときの声。

話の中で、二人に同じことを言った。

どうでもいい。
俺のために生きていてと彼は言った。
どうでもいいことないでしょ?と君は言った。

楽しくない。
俺に会うのを楽しみにしてと、彼は言った。
楽しくなってよと、君は言った。

君との会話は、生活感溢れるもので
彼との会話は、恋人同士のもの。

2004年12月04日(土)

距離感と厭世観
今日も昨日と同じようにメールのやり取り。
短いものばかりで40通を超えたから、
チャットのようなもの。

去年の今頃まで同じようなことをしていたのを
思い出した。
前は、彼専用のフォルダを作っていた。
数ヶ月前に、電話でケンカした時に、フォルダごと
捨てたので、それ以降のものは、他の友人と同じ
フォルダに振り分けていた。

楽しい話題が続くわけでなく
お互いの今の環境・状況から少し距離を置いた
会話のようなメールだった。

君から電話が入り、私の第一候補だった物件に
既に申し込みがあったことを聞いた。
それから一気に気分が落ち込み、彼に出すメールも
ひどいものになっていった。

近い過去のお互い様気分が消え、遠い過去の始まりから
振り返ってしまった。
初めてだと思うが、
 ○○のせいで、私の人生はこうなってしまった。
と書いた。
今までは意識して「せいで」と言う言葉を避けていた。
誰にどう言われようと、二人の間に起こったことだから
どちらのせいでもなく、
どう進もうと彼だけに責任を押し付けないつもりだったのに。

きっと少し前に、周囲の雑音に負けてしまって
自分の意志を押し殺したと聞いて、
あぁ、またか。
それなら、私が待ったのはよくなかった。
もっと強く押せばよかったと感じたからだ。

君が私の生命線なのは確かだ。
私を思って、実際に私のために動いてくれる
人は、君以外にいない。

私が君といるのは、愛情のなくなった夫婦が、
情や惰性や経済的理由で別れないのと一緒かもしれない。
ただ、私はいつもそれを卑怯だと思っている。
だから今回の移転で、何度も別れを告げた。
別れようではなく、一人で行って下さいだったが。

私はどうするのかと、そのたびに問われ
答えはいつも同じだった。
帰って、一人になって、何もせず、終わりを待つ。

今日、彼にも聞かれた。
 なくなったらどうするの?
 何もしない、おしまいにする。

こんな答えを聞いて、じゃさよならだねと
君が言うはずがない。
それをわかっていながら、嘘をつく気になれない。
君のしてくれそうな返事を期待して
わざと拗ねてみせているわけではない。
そんな駆け引きをする気はない。

  生きていればいいことあるよ。
  じゃ、帰るね

これが、彼の今日最後のメール。
暗くなったメールに、とことん付き合う義理はない。
そう思い直して、
仕事中に重いメールしてごめんねと謝った。
付き合っていた頃から、彼からはこんな調子のメールが
多かったけど、それに対して、今の私が怒れる立場じゃない。

いいことあるよ?
いいことなんか何もない
それが私の本音で、ずっと付き纏って離れない気持ち。
そう彼に言わないのは、二人の今の距離感。

2004年12月03日(金)

初日 最新

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