2004年09月03日(金) |
800字小説「さびしいって気持ちは、好きって気持ちと少し似ている」 |
ゴザンス800字小説
お題は(卒業の日に/教室で/わたしが)
*
「さびしいって気持ちは、好きって気持ちと少し似ている」
三月。
朝の光でゆるく目覚めた空気が、いつもの台所を満たしている。
やかんのお湯が沸くのを立ったままじっと待ちながら、私はさびしさを持て余している自分に気づく。
紺色のセーラー服。モスグリーンのリボンタイ。そして白い靴下。
それらは全部明日には思い出になる。
「おはよう。」
父がキッチンに現れる。続いて弟が、そして母が朝食を並べ始める。
それは冬の朝の日常。特別なことはどこにもない。
いつもの時間にアッコが呼び鈴を鳴らし、いつもの時間に玄関を開ける。
「おはよう。」
吐く息も白く、でもよく晴れた冬の日の朝は、陽射しがとてもあたたかい。
教室には、少し高揚した様子のいつものみんなの顔がある。
「ねぇ、昨日のテレビみた?」
だけど交わす会話はいつもと変わりない。
今日で最後だけれど、それが永遠の別れではないと、みんな知っている。
卒業生入場の時間だ。
廊下に二列に並んで体育館へと進む。
在校生のざわめく声。
体育館の上履きの匂い。
私は背筋を伸ばし、あごを心もち上にあげ、深呼吸をする。
深く。長く。
ピアノの前奏が軽やかに響いて、校歌が流れ始める。
はじめの一音を口にしようとした途端、それは再びおとずれた。
体中の水分が中心に集まって、ぐずぐずとわだかまる。
さびしい。
耳慣れた校歌を歌いながら、涙がこぼれそうになるのをとめられなかった。
私は持て余したさびしさを、涙にかえてあふれさせる。
いつのまにか卒業式は終っていた。
体育館からあふれでた卒業生は、正門の前で写真を写している。
けれど私はひとり、教室へと引き返す。
教室はがらんとして静かだ。
私は入口で立ち尽くし、誰もいなくなった教室を眺める。
この教室でたくさんの授業を聞いた。
あの黄ばんだカーテンも、
あの黒板も、
ぜんぜん吸い込まない黒板消しクリーナーも、
ガスストーブのホースも、
窓から眺めたあのグラウンドも、
みんな思い出になる。
結局、教室の中には踏み込まないまま、私は帰っていく。
「アッコ!一緒に写真とろう!」
さびしいという気持ちは、好きって気持ちと少し似ている。
間違わないように、間違えないように……。
私はもう一度深呼吸する。
深く、長く……。
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締め切りがせまっています。
まだ卒業文集もできてないよ!!
やばいなぁ。
昨日の夜、
長期の休暇をとるのでご迷惑おかけします、ごめんにょ。
というメールを数人の大人たちに出しました。
今朝、その大人たちのうちの何人かから返事が来ました。
あんまり優しい言葉に、じ〜んとなる。
大人の男たちは優しい。
やさしくて涙がでる。
見知らぬ赤子にやさしくする大人の、懐の大きさ、温かさ。
そういう、やさしさのぬくもり。
私は小さな子供になったような気持ちで、
その言葉をありがたく受け取る。
現実的にはいろいろ面倒をかけるだろうに、
そのことも無いことにしてしまえそうに、やさしい言葉。
ほんとうに、大人たちは優しいなぁ。
感謝の気持ちを忘れないように。
ありがとうって言わなきゃ。
*
さて、
外はしのしのとした霧雨。
秋だなぁ。
今年はとても規則正しく季節が流れていると思う。
6月の梅雨の時期にはきちんと雨が降り、7月8月はとても暑く、
9月には台風が来ている。
きちんと涼しくなってる。
昨日から、世間では二学期が始まった。
大学生はまだ夏休みか。
そういえば大学生の頃って2ヶ月も休みがあったんだね。
あの頃私はいったい何をしていたんだろう?
さみしいさみしいと、そう思っていたように思う。
自分の存在が不確かであいまいで、とても希薄なものに感じていた。
たしかそうだった。
それで、ぼおっとしてる間に夏休みが過ぎていた。
そんなだったなぁ。
今は「夏休み?なにそれ」だもんなあ。
やれやれ。
*
外はまだ霧雨だ。
やみそうにない。
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ゴザンス800字に「待ち合わせ」というタイトルで投稿したけど、
それとはまた別に、今日またひとつ800字を書いた。
タイトルは「寂しいって気持ちは好きって気持ちと少し似ている」
一度長いタイトルの800字を書こうと思っていて、
昨日書いた日記からヒントを得て書いてみた。
けど、800字しかない物語にあんまり長いタイトルをつけると
中身を読まなくても内容が分かってしまうね。
はは。
まあいいや。
あと少し文字数を削って投稿かな。
2004年09月01日(水) |
寂しいってこと/忘れてはいけないのは、ありがとうって言葉 |
遠くの空に見えている花火を、
ぽん、ぽん、という微かな音だけを頼りに、ひとりで見つめている、
あの、なんともいえない、寂しい感じ。
それに似た寂しさを感じる。
寂しいってことは、好きって気持ちと似ている。
あんまり似ていて困るくらいに。
*
忙しかったりすると、つい忘れがちになる、
ありがとうって言葉。
忘れないように言わなくてはいけない。
ごめんね。の代わりに、ありがとう。って。