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1959年6月12日。 私が23才の時に、結婚した。
結婚する半年前に、夫は洋食屋を開店した。
それまで勤めていた洋食屋のオーナーに勧められたのだ。
「相手のご両親の信用を得るために、洋食屋を自営するのが良い」と。
簡単に自営と言うが、夫にそんな資金があるはずもない。
彼もまた23才の若輩者だった。 真面目に働いてコツコツ貯金していたのならまだしも、稼いだお金は ほとんど飲んでしまうほど、アルコールと女が好きな男だった。 営業資金は、夫の母が全部まかなってくれた。 名目上は「貸す」という事だったが、結局その時に借りたお金は返す事は なかった。
結婚する半年前から、私は夫の営業する洋食屋へ手伝いに行った。 手伝いに行き始めて3ヶ月後、妊娠した。
洋食屋を手伝ってからわかった事。 夫は、とても激しい性格だった。 怒ると、手がつけられない。 罵詈雑言。 これでもかというくらい、怒る、打ちのめす。
それで、私は、夫への愛情が失せていった。
その事を察した夫は、ある日、店が終わってから私と対峙してこう言った。
「お前の態度を見ていると、ワシに愛情があるとは思えへん。結婚を止める のなら、そう言ってくれ。ワシは、止めへん」
タイムマシンがあるのなら、あの時、あの時間に戻して下さい。
私は、夫がせっかく「結婚をやめてもいい」と言ってくれたのに、それを 断ってしまったのです。
「いいえ、私はあなたと結婚します」
そう言った。
夫への愛情が失せた事は、本当の事だった。 それなのに、結婚する事を決めたのだ。
なぜって、 もうすでに、結婚式の案内状は送ってしまった後だったし、 なにより、私はもう、あの自分が生まれ育った家に戻りたくはなかったから。
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