ついに、というか、やっと、というか、東京を去る日がやって来た。
東京生活最後の朝食は、前日にモスバーガーで買っておいたチーズバーガーだった。
チーズバーガーは冷え切っていたが、温めもせずに食べた。
僕のこれまでの東京生活を象徴するような朝食だった。
朝食を食べ終えると、職場(といっても先日お別れ会を開いてくれた職場とは違うところ。この辺は理由あって説明できないので悪しからず)へ最後の挨拶に行った。
すると、思いがけず次長に昼食に誘われた。
次長は仏教大学出の変わった経歴の持ち主なのだが、その次長から、最後にいろいろな人生訓を教えてもらった。
「人生は最後まで自分探しの旅だよ」という言葉が特に印象に残った。
昼過ぎになって、引越し屋に来てもらい、荷物を運び出してもらった。
がらんとした部屋を見つめても、寂しさは湧かなかった。
東京に住む前、8年間暮らした部屋を去るときは何とも言えない寂寥感が漂っていたが、今回は違った。
一年も住んでいないということもあるし、いい思い出があまりなかったことも関係しているのだろう。
むしろ、ほっとしたような気持ちの方が強かった。
その後、実家に預けてあった車を持ち出すだめに実家のある愛知県に電車で向かい、実家から石川県までは車で向かった。
電車に乗っている間、僕は不思議な気持ちに襲われた。
東京を去るという実感もないし、石川県に帰るという実感も湧かない、ふわふわ宙を浮いているような、夢を見ているような感じだった。
涙の一つでも出るかと思ったが、全くそんなこともなかった。
ただ、何かが終わって、何かが始まった、それだけのような気がした。
僕の人生は連続しているのだ。
たくさんの人と出会うことができた東京生活だったが、全体的に見れば失敗に終わったと思う。 でも、これからその失敗をどう生かしていくか、それを考えていきたいとは思う。
先日の日曜日、僕のお別れ会のようなものを職場の人が開いてくれたのだが、今日、ひょんなことからもう一度、やはり職場の人たちで、僕のお別れ会を開催することになった。
日曜日のお別れ会は、職場のごく一部の人たちで開いたものだったのだが、後日、お別れ会があったことを知った、そのとき参加していなかった人たちが、「なんで僕らを呼んでくれなかったの!?」と言い出したのが、お別れ会を二回もやることになったきっかけだった。
僕の顔を最後に見たいというのだ。
こんなかたちで職場を去るにも関わらず、僕が職場を去ることを惜しんでくれる人がいることを知って、僕は本当に嬉しかった。
また、僕が職場で嫌われていたわけでも避けられていたわけでもないことを知って安心した。
飲み会の最後、僕はみんなと固い握手をして回った。
仕事で貢献できなかった僕だが、みんなと心のどこかでつながることだけは出来たのかもしれない。
東京に来て、いろんな人と出会えて、それだけは本当に良かったと思う。
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