日々の泡

2010年04月10日(土) 昨日出会ったふたりの女性

昨日の帰りのことだ。
電車を降りると、年配のご婦人が声をかけてきた。
一緒に行きましょう。
婦人は、わたしを抱くように腕を背中に回し、歩き始めた。
本当のところ、盲人というのはそんな風にされると後ろから前へ押される形になるから歩きにくいものだ。
けれど、その婦人はとても大柄でわたしを包むように歩かれる。
身長165センチのわたしよりかなり大きい感じがする。
その体からはなんともリラックスした感じが伝わり、わたしはうっとりとした気持ちで歩いた。
待てよ… この感じ、前にも体験したことがあるような…
背が高くてらっしゃるんですね…
と尋ねると、
そうなの、わたし170センチあるのよ…
その声は深くて、なんだか宝塚のスターみたいだ。
もしかして、以前にもお声をかけてくださいませんでした?
と訊くと、
あら、すごいわ、そうなの… でも、もう何年も前のことよ。
やはり。確か、あれは暑い夏の盛り、婦人はわたしの持っていた日傘を、まあ、しゃれてる!と褒めてくれたのだった。
そして昨日のようにわたしを抱くように歩いてくださったのだった。
わたしね、思うのよ、お目々のわるい人って、他の感覚がもの凄いんだって。わたし、だって集中したい時は自然と目を瞑るものね。
その口調は、わたしが、今盛んに読んでいる明治、大正、昭和初期の女の人のように奇妙に艶っぽく、かといってあだっぽすぎない品がある。
確か、あの夏の日、このご婦人はエステティックの帰りだと言っていた。
マッサージを受けて、気持ちがよかったと恍惚とされていた。
そのリラックスして弛緩した体で、わたしを包んでくれたのだった。
母ほどの年齢だろうか。
わたしまで恍惚としてしまったのだった。
あの包まれた安心感。
幼子が母に抱かれて歩くような安心感。
しばし、うっとり歩いたのだった。
 婦人と別れて、スーパーで買い物をする。
サービスカウンターで誘導を頼むと初めて担当してくれる店員さんが来た。
肩におつかまりください…
つかませてもらった肩はずいぶんと低いところにあった。
うって変わって小柄な方だ。
たぶん140センチぐらい。
明るくはきはききびきび…
山椒は小粒で…の通り、。
個性的なふたりの女性に出会った黄昏でありました。



2010年04月09日(金) 氷砂糖がなくても

禍福糾えるごとくの一週間でありました。
禍の方は自分で招いたもののようでありましたが…
まあ 仕方がない。
時間が解決してくれることでしょう。
気持ちをフラットに、時の流れに流されましょう。
オールを持たずにボートで流されるように
さて辿り着くのはどこだろう?
心から悲しいことはだれにも言えない。
なので言わない。
そうすると寡黙になってしまうんだな。
ある夜のこと
五十近くにもなる娘の頭を
母は撫でて言うのでした。
もっと幸せになって欲しい…って。
と言うことは、あたしはしあわせに見えないってこと?
さまざまなことがあるけれど
これでも結構しあわせなのだよ、あたしは。
しあわせのてんてんをつないで
もっとしあわせになって行くのだよ、これからあたし。
青空文庫で宮沢賢治の可愛い文章を見つけました。

『注文の多い料理店』序
宮沢賢治

 わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃(もも)いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗(らしゃ)や、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。
 わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。
 これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹(にじ)や月あかりからもらってきたのです。
 ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおり書いたまでです。
 ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
 けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾(いく)きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。

  大正十二年十二月二十日
宮沢賢治

底本:「注文の多い料理店」新潮文庫、新潮社
   1990(平成2)年5月25日発行
   1997(平成9)年5月10日17刷
初出:「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社
   1924(大正13)年12月1日

明朝は晴れるとのこと。
美しい桃色の日光を思い切りのみ込みましょう。
今から楽しみです。
おやすみなさい…



2010年04月07日(水) ありがとう 渡辺君とポークピカタッ!

ポークピカタっ!
今朝は経理の渡辺君の快活なこの一言で始まったのでした。
本来ならば、今日のお昼の仕出し弁当のメニューの内容は
鰈の煮付け
ガンもと小松菜の煮浸し
小芋の煮っ転がし
でした。
けれどお魚が苦手な人のためにお肉のメニューも用意してくれるのです。で、毎朝お弁当屋さんに電話で問い合わせてみんなに教えてあげるわけです。
渡辺君に今日のお肉メニューを教えてあげると、彼はいつもの明るく大きく快活な声で、うれしそうに、でもってちょっぴしスタカートも効かせて、
ポークピカタッ!」
と言ったのでした。
なんだか、おかあさんの作ったおいしいごはんを大きくなるまでたくさん食べてきた健全な若者のパワーが炸裂したようで、
雨模様のどんより気分がパット晴れた瞬間でした。
ありがと、渡辺君…
 小田原の梅林の梅の実の八割近くがこのところの寒さでだめになってしまったようです。
今日の帰りもそれはそれは寒かった… 
春はどこに行っちゃったんでしょうか?
 今夜は鮭。
いただきものの鮭。
iPodでアン・バートンを聴きながら鮭を焼く。
板状のチューインガム数枚分の大きさのわたしのiPodシャッフル…
わたしには充分の小ささなんだけど、みんなでかい」と言う。
そんなちっさいの持ってたらきっとなくすんだから…
いいんだもん あたしはこれで。


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茉莉夏 [MAIL]