日々の泡

2011年06月07日(火) 梅雨の晴れ間 エッセイのこと

何だかわからないけれど気が付くと空を仰いでいる。
何がわかるわけでもないのに空を仰いでいる。
まるで故郷を懐かしむように空を仰いでいる。
なんだかわからないけど申し訳ないな…などと誰かに謝っている。
鳥に木にすみませんね…と謝っている。
生きているのが申し訳ないような気になる。
自分で自分が面倒なのだ。
 海外で暮らした人たちのエッセイを読むのが好きだった。
アメリカ・ヨーロッパ・アジア
異国の街で暮らす人たちはその心持ちがデリケートになって
ささやかな出来事を水彩画のような瑞々しさで描き出す。
人との触れあい、仮住まいでの慎ましいながらも選び抜いた暮らしの小物、たち、ふとしたきっかけで同居人となったペットたち…
そして、その街の息づかい…
そんな楽しいことが綴られているエッセイは本当に大好きなのだが…
最近、ふと気付いた。
読み終えたのち、ふとなんだか淋しい気分になることを。
なぜだろう?
と考えたら、どうやらその理由は著者たちの帰国後の生活がどうしても外国生活を送っていたころより色あせて見えることにあるらしい。
外国で暮らされていたほうが楽しかったのでは?などと、海外生活のないわたしは思ってしまうのだ。
先週の読書はエッセイと短編小説。

ニューヨークのとけない魔法(文春文庫 お41−1)  著者 岡田 光世著
いちばんここに似合う人(CREST BOOKS) 著者 ミランダ・ジュライ著 岸本 佐知子訳
ブックデータよりー  水が一滴もない土地で、老人たちに洗面器で水泳を教えようとする娘を描いた「水泳チーム」など、孤独な魂たちが束の間放つ生の火花を鮮やかに写し取った全16作を収録。カンヌ映画祭新人賞受賞の女性映画監督による初短篇集。

とてもユニークな設定であるのに読み終えるとシンプルに胸に迫るものがありどきりとする。
どんな映画を作られる監督なのだろう…興味津々…



2011年06月05日(日) 夕方には土砂降りらしい

辿り着いたらそこは土砂降り
そんな歌が昔あったね。
土砂降りの間は晴れ間のことなど考えられないものだけれど
止まない雨はないとだれかが言う。
いや、止まない雨というのも想定できるような…地球の思いは計り知れない。
けれど明けない夜はない。
朝は来る。
絶対。
先週は心の晴れない一週間だった。葛藤に次ぐ葛藤ですっかりくたびれた。
あるサイトにアップしたトピックを書きながら、少し気持が楽になった。
悩む思いから離れて、何かを描くのは精神衛生上よいらしい。
そのトピックをここに貼り付けます。
よかったらお読み下さい。

「周囲のみんなが偉く見えるひ」というタイトルです。


  震災にあった盲導犬クララ
著者名
  石黒 謙吾構成 小山 るみこ絵
内容 ブックデータより
  崩れた家、慣れない生活の始まり。どんなときもクララが支えてくれた…。新潟県中越地震で日本で初めて避難所生活を許された盲導犬クララ、そして最初のパートナー、ハイジ。2頭のパートナーが支えた、中村良子さんの20年。

新潟の女性視覚障害者とその二代のパートナー犬ハイジとクララのノンフィクション。
新潟の盲人女性と言えば最後の瞽女小林ハルさんを思い浮かべる。
そして、宮尾登美子さんの小説、盲人女性が老舗の酒蔵を受け継いでいく「蔵」の主人公・れつも新潟女だ。
雪国で培われた底力をそれぞれの女性から感じ取ることができる。
中村さんは貧しい農家に生まれ、目の病も貧しさゆえに治療もままならず失明にいたった。
マッサージの免許を取得後、盲導犬の訓練を受け、新潟の震災の際には崩れかけた家からクララを伴い避難所へ逃れた。
ペットは避難所では生活できないがクララは特別…係員から説明があると避難所のみんなが拍手で歓迎してくれた。
犬が嫌いな人もいるだろうに…中村さんの頬に感謝の涙がつたう。
こうして日本で初めて災害時に避難所で受け容れられた中村さんとクララの避難生活が始まる。
中村さんは盲導犬と共に登山などにも積極的に参加、マラソンもされるご当地では有名人のよう。
そんな中村さんの姿勢が避難所での盲導犬受け容れにつながっていったのではと感じた。
今回の震災に遭われた盲導犬ユーザーのみなさんが少しでも早く普段の生活に戻れますように。
 わたしが視覚障害者のリハビリ施設でお世話になったAさんとおっしゃる女性がいる。
彼女は二年ほど早く退職されマッサージの免許を取得された。
視覚障害の施設で生活指導をされていたと言っても彼女自身は健常者である。
まだ勤務されている時から仕事の後、神奈川の田舎から新宿の夜間のマッサージの学校へ通うという努力伸す絵に取得した免許。
と書くと必死な感じだけれどご本人はいたって平気そんなことなんでもないっていう様子。
失礼だが、六十目前の女性には思えない若々しさ。わたしは見えないが知人の説明によると48歳のわたしと変わらない外見らしい。ずるい…
その彼女、この震災でボランティアを続けている。
ご自分の車にマッサージ学校の同級生を伴い週末に避難所を巡る。
実は二十数年前にリハでお世話になっていた頃はどちらかというと苦手なイメージだった。
人というのは本当に理解しようと思うと何十年もかかるものなのか。
わたしが愚かなのか?
これからの残る年数を思うと果たして他人の輝く心に先入観なしに触れることができる回数はどれだけ?
 顔なじみのタクシーのドライバーさんがいる。
お嬢さんを白血病で亡くされた。お嬢さんは全盲の男の子を遺して逝かれた。
彼は孫であるその子を溺愛している。
わたしに会うとお孫さんの噂話に花が咲く。
遺された家族で男の子を育てている。
この春彼の息子さん(亡くなったお嬢さんの弟さんにあたる)が、養護学校の教師となった。
息子さんは外資系の会社に勤務されていたのだが、全盲の甥っ子を可愛がり、こんなこどもたちのために働きたいと一年発起し会社を辞職。
そしてめでたく養護学校の教師に。
この秋結婚もされるとのこと。
ドライバーさんは涙を流して喜んでいた。
こんな不況の中、安定した企業を辞めることを許したドライバーさん、その彼自身も随分前に事故で膀胱破裂-人工膀胱で仕事を続けている。
ご家族はあなたの後ろ姿をずっと見ていたのでしょう。
この時代、尊敬できる政治家はいないけれど、どれだけ多くの市井の賢人たちが日本を支えているか…
わたしは彼らに触れるたびに驚き喜びを分けて貰う。



2011年05月29日(日) 雨です

雨が静かに降っている。
小鳥がベランダで羽を休めている。
どこかのジャスミンが風に香りを乗せている。
遠くの工事の音が響いている。
風の中に雨の中にさまざまなことが潜んでいて
わたしたちのもとへ届けられる。
歌声も笑い声も鳥のさえずりも鼻の香りも
工事の粉塵も工場の煙も見えない毒も
逆巻きながら
漂いながら
地表を充たしていて
おもいきり吸い込んでみたり
鼻をきかせてみたり
耳をすませてみたり…
五感を総動員しても
わたしには何もわからない。
風が吹いて
雨が降り続いているだけ。
荷物が届いて開いてみると
わたしの腕ほどのズッキーニ ヤングコーン トマト そら豆…
ズッキーニの季節だ…
心理検死官ジョー・ベケット
(集英社文庫) 著者 メグ・ガーディナー著 山田 久美子訳
サンフランシスコが舞台のミステリー。物語中、何度か大きな地震が起こる。
主人公は二十数年前のサンフランシスコの大地震で崩れた橋に家族と載っていた自動車を押しつぶされ危ういところをなんとか救助された経験の持ち主。
トラウマで閉所恐怖症になった。
ストーリーの中でも何度か大きな地震に見舞われる。命を救う人救われる人、たとえ助かっても災害はそれぞれに傷を遺す。
主人公はおばあさんが日本人、協力して事件解決に奔走するサンフランシスコ市警の女性刑事は中国系で名前はエイミー・タング…はて、どこかで聞いたような…と既視感に襲われていると、あとがきの説明で納得。
十年ほど前になるかベストセラーとなったジョイラッククラブ」の著者・エイミー・タンにちなんでいるのだそう。
「ジョイラッククラブ」は大戦中に中国から亡命してきた女性たちとその娘、孫に続く三代の人々の暮らしを軽妙に綴った小説だった。
「ワイルドスワン」の重量感はなかったけれど、強さと希望と明るさを持った女性たちが登場する読者に勇気を分けてもらえるような物語だった。


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茉莉夏 [MAIL]