空港という場所は、どうも無機的で冷たい印象があるので好きになる事は出来なかった。
僕は彼女と彼女の荷物を載せて、空港の駐車場に車を停めた。 午前中の空港は、思ったような混雑もなく、早めに出た分だけ出発までに時間がある。 「どうしよう?」 僕が聞くと彼女はサイドブレーキから身体を乗り出して僕の事を抱きしめた。 「もう会えないわけでもないのにね」 僕の腕の中で、彼女は呟くように言う。僕は両腕に少しだけ力を込めた。
「シアトルは遠いね」 彼女が空港内のコーヒースタンドでカフェオレをかき回しながら呟いた。 僕はどんな表情を作って良いのか分からなくなって、言葉を飲む。 僕の変化を敏感に悟って彼女が明るい表情を作る事が悲しかった。
手を繋いだまま、国際線の搭乗口へ向う。
「遅れてるみたいね」 電光掲示板を見上げて彼女が言った。到着遅れで、フライトが5分遅れていた。 「5分だけ、余分にいられるね」 僕が言うと、彼女は僕を見上げて悲しげに笑った。
僕は彼女を抱きしめて、最後にキスをする。 彼女は少し微笑んで、そして搭乗口に向って歩き出した。 「またね」 「またね」 まるで明日には会えるような言葉を交わして、僕は彼女の背中を見送る。
彼女が見えなくなってから、どれほどの時間が経ったか分からない。 僕は背中を丸めるようにして、踵を返した。
何故、空港という場所がこんなに冷たくて無機的なのかが分かった気がした。 感傷に浸るには、このくらいで丁度良いのだ。
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