Shigehisa Hashimoto の偏見日記
塵も積もれば・・・かな?|それまで|これから
2002年12月27日(金) |
個人的「男はつらいよ」ベストテン ’02 |
前々からやりたいと思っていたがあまりの面倒くささに頓挫していた企画をついに実行できる運びとなった。寅さん映画のベスト10選出である。
すでにいろいろな人がいろいろなメディアで「私の寅さんベスト10」を発表し、そしてその理由を熱っぽく語っているが、嗜好性の違いとは面白いもので評する人によってランキングの内容はまちまちもいいところである。ある人が傑作だと述べた作品を違う人は駄作だと扱き下ろしたり、あるいはそこまでいかなくとも肌が合わないといったりしている。寅さんファンのほとんど誰もが名作と称してやまない「リリー・シリーズ」でさえ、「僕はキツネ顔はきらいでね」と言って自分のベスト10にはいれていない評論家もいる。これらの評論を読んでいると今まで自分があまり好きではなかった作品の意外な一面を知ったり、逆に大好きな作品の欠点を指摘されたりして非常に勉強になる。今回はそれらを踏まえて自分の心の趣くままにベストを決めようという試みである。 ただ、最初に断っておきたいのは、映画「男はつらいよ」は一本ずつ独立した作品にはなっているが本質的には48作総べて見ることによって完成されるジグソー・パズルのようなものであり、出来不出来の差はあるにしろどの一作も欠けてはならない大切なピースなのである、ということである。また今回タイトルの末尾に「’02」をつけたのはこのランキングが流動的であることを示したのに他ならない。要するにその時の気分によって順位はかなり上下するということである。来年、またこの企画をやったらかなりの確率で内容が変わっているだろう。これは私が無責任だからでなく、それだけこのシリーズが奥深いからであるのだが・・・ ま、細かい理屈はこのくらいにしていよいよ発表してみるとしよう。
個人的「男はつらいよ」ベストテン ’02
第1位 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け(第17作)
第2位 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎(第32作)
第3位 男はつらいよ(第1作) 第4位 男はつらいよ 寅次郎恋歌(第8作)
第5位 男はつらいよ 寅次郎純情詩集(第18作)
第6位 男はつらいよ 寅次郎相合傘(第15作)
第7位 男はつらいよ 寅次郎真実一路(第34作)
第8位 男はつらいよ 寅次郎かもめ歌(第26作)
第9位 新・男はつらいよ(第4作)
第10位 男はつらいよ 寅次郎心の旅路(第41作)
各作品の魅力を手短に書いてみよう。まず1位の「夕焼け小焼け」であるがこの作品の栄光は流動的な私的ランキングの中においてもこの後も不動であろう。寅さんシリーズ全体のなかでも一番笑うし一番ジーンと来る作品である。シナリオがいいし、マドンナの太地喜和子の芝居は弾んでるし、ゲストの宇野重吉も抜群。ラストシーンはほとんどハッピー・エンドに近く、これは寅さんシリーズの中では稀なケースである。記憶があいまいだが確か昭和51年度のキネマ旬報日本映画ベスト10で第二位の評価を得たから一般的にも人気の高い一作でもある。初めて寅さんを観る人は是非この作品から入ってもらいたい(もちろん第1作から順に見てもらってもかまわない。本当はそっちの方が良い)。
第二位の「口笛」もまた、笑って泣く作品である。まずをもって、竹下景子の芝居が良い。演技の質は先ほどの太地のちょうど対極に位置する存在である。この安定感はなかなかつくれるものではない。映画的にも寅さんが久々に弾んで見える作品で、非常に軽妙なのが心地よい。また、ラスト近くの柴又駅の別れは珠玉の名シーンである。
第1作の「男はつらいよ」は、もう別格扱いしてもいい作品である。この一作に寅さんの全てが詰まっていると言っても過言ではない。渥美をはじめとするキャストみんなが若々しくエネルギッシュで、画面から溢れんばかりの迫力が凄まじい。名シーンの多い本作だが、敢えていうならば森川信演ずるおいちゃんと寅さんの凄みのあるケンカのシーンと、記念すべき(?)一回目の失恋後、柴又駅で舎弟に八つ当たりしながらラーメンを啜るシーンを挙げておきたい。
「恋歌」は映画的整合性の点ではベストの作品かもしれない。上手く表現できないのが歯がゆいが、この作品をみると「ああ、映画を観たんだなあ」という思いが実にしみじみと湧き上がってくるのだ。物語のトーン全体がしっとりと落ち着ついており、からりとした笑いのシーンとのメリハリが絶妙に利いている。また、作品にテーマ性が出てきた最初の作品で、その点に着眼しても名作の誉れを得られるだろう。
「純情詩集」では寅さんは失恋ではなく、悲恋を体験することになる。人間の業、人間の目的とは何なのか、という根源的命題に迫った作品であり、それを喜劇仕立ての悲劇で提示したことが秀逸である。
かなり行数を使ったので6位以降はさらに手短にする。「相合傘」は世間的な評価はおそらくナンバーワンである。何と言ってもリリーが出色。さくらがいう「結婚するならこの人しかいない」というセリフも頷ける。そして、メロンのシーン。ウエットに飛んだギャグとはこういうことをいうんだと深く実感する。「真実一路」は「哀・寅次郎編」ともいうべき作品で、寅さんも聖人でないことがはっきりと分かる作品である。「かもめ歌」は単純に笑いのシーンが多く、良作喜劇をたっぷりと堪能できる点が良い。「新」は森川信が絶品である。このシリーズに森川が(たとえ8作品だけにしろ)参加してくれて本当によかったと感じる作品である。「心の旅路」は晩期の中では一番楽しい作品で、「どこに行っても人は同じ」という人間普遍を謳っているのもいい。ゲストの柄本明の怪演も良い。
いかがだったであろうか。私の見方は勿論恣意的で穴も多いと思うが、寅さんがどれだけ魅力的であるかはわかっていただけたと思う。私が寅さんの本格的なファンになってそろそろ10年目になるが、おそらくこれからも末永く寅さんを見続けることになるだろう。そしてその度に寅さんは新たな魅力を振り撒いて私の前に現れるに違いないのである。
橋本繁久
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