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ラヂオスターの悲劇
トマーシ
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2003年10月03日(金)
サーフサイド

ぼんやりと「真夏の夜のジャズ」を観ていた。何度も何度も観ているので、テープはすっかり伸びている。じっとアニタ・オディの順番を待ち、その間、トーストを二枚も食べた。
船べりで、
「ジャズはお好き?」
「お目当ては?」
「僕はマリガン、君は?」
「私は別に」
「ごひいきいないの?」
「ジャズはぜんぜん。」
「じゃ、どして?」
「乗馬よ。」
それから羽飾りの婦人が登場する。僕は台所に立っている。二枚の魅力的な便箋を前に腕組みしているみたい。トッペンとしたモンクのピアノ。バックは二隻のヨット。トーデュルディーとトーデュルドゥーみたく頭の中で沢山のものが分かち難く結び合っている。一方は暗澹たる気持ちかもしれない。部屋を暗くして映画に没頭する。案の定、胸が焼けるように熱い。アニタ・オディは大きな帽子、そして黒いドレス。
ー雨は天皇! 雨は天皇!ー
ジリジリする夏をアニタ・オディは「スィート・ジョージア・ブラウン」を唄い始める。ゆきづまる風な唄。
トーストを食べ過ぎたのだ。ゆき過ぎはもちろん他にもある。だがあまり考えると空から粉が降ってきそうだ。それでビフテキのことを思い浮かべる。カウボーイスタイルじゃない分厚いビフテキと二つに割ったグレープフルーツ。考えただけで涎が出てくる。アニタ・オディはビフテキをギリギリまで引張って、それからサラリと「二人でお茶を」で流した。
舞台のはけたニューポート・ロードアイランド。 買ったばかりのいい匂いのする本を流し読みするみたいに、ネーサン・ゲルシュマンのバッハ ディキシーで「オー マリーランド・マリーランド」が続く。
お目当てのジェリー・マリガンはもうすぐ。でも瞼が次第次第に落ちてくる。のっそ、のっそと変な帽子を被ったリチャード・ブローティガン、今日はたぶん一杯はにかむね。寝転んでいるせいで一番近い夢までもう指先半里くらい。