知っての通り、みんな自分だけのバターを持っている。 年頃の女の子が口に紅さすのと同じように もう家族のお下がりじゃ我慢ならない。 そう思い立った君は取っておきのバターを作り始める。 他の誰もがそうしたように。 自分だけのバター ひっそりとした屋根裏部屋に逃げ込んで、 ただ一人で造らねばならない。 時々、君の母親が様子を見にやって来る。 君の作ったばかりの温かなバターを こっそり舐めるため。 君の顰蹙を買うけれど。 仕方が無い。 一生に一度、自分の種に敏感になる季節 母親は肩を落として君の部屋からスゴスゴ立ち去る。 喉まで出かかった言葉を飲み込んで。 塩が少し足りなかったのだ。 それから試行錯誤の幾星霜。 今日はいいバターが作れただろうか?
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