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帰らなきゃ
今住んでいる家の近くに、小学校がある。休みの日、洗濯物を干していたり、散歩していたりすると、たまにチャイムの鳴る音が聞こえる。聞いているとなんとなく、「帰らなきゃ..」という気分になる。今住んでいる場所ではなく、実家でもなく..どこかへ。どこへ、かはわからないけれど、どこかへ。
スーパーなどの、閉店の音楽にも思う。「帰らなきゃ..」と。蛍の光とか、恋は水色とか、どことなく哀愁を帯びたメロディに、追い立てられるような気分になりながら。買い物はすんでいても、なぜか後ろ髪をひかれながら。
そういえば小さい頃、5時にサイレンが鳴っていた。それが鳴ったら、遊んでいても帰ってきなさいと言われていた。「帰らなきゃ..」は、その頃から心身にしみついたものなのかもしれない。友達と手を振って別れた後の、あの、よるべない感じ。「帰らなきゃ..」どこへ?
現実に帰るところは、もちろんそのとき住んでいる場所なのだけれど。もっと切実に、どこかに帰らなくてはいけないような気がした。正しい場所へ戻りたい、と願っていた。それは多分、学校でも職場でも家庭でもない。それらはいつも、わたしにとっては一時的な仮の場所にしか思えなかったから。イメージとしては、地面とか海とか森のほうが近いかもしれない。帰らなきゃ..どこかへ。
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