読書日記

2001年10月31日(水) 今日もミステリマガジン12月号の拾い読み。

今日もミステリマガジン12月号の拾い読み。この雑誌は隅々まで行き届いているので思わぬ読みどころがあらわれて得をした気分になることがある。するめのような雑誌である。その点SFマガジンは直情径行でまだ子供気分が抜けていない感じがする。出所は同じでも同列には論じられない。
中村真一郎「小さな噴水の思い出」(筑摩書房)の第11章は「野間宏の知られざる一面ー追悼のために」である。途中までは先の10章と共通する回顧的内容で、筆者が野間宏に立ち入ったアドバイスをしたという話。後半は逆に野間宏が筆者の作品についての意外な理解者だったことに驚き、やがて非常に喜んだという告白。野間宏が彼とは無縁だと信じていたプルーストや王朝の貴族美学の読者であり、そこから筆者の小説に対する深い理解と愛情ある批評が生まれたことを知って、中村真一郎は歓喜したという。
思い起こすと今年は1月に凄い時代小説を一つ読んでいた。それは池宮彰一郎の「天下騒乱(鍵屋ノ辻)」上・下巻である。この荒木又右衛門の物語は凄まじかった。伊賀上野、鍵屋の辻の対決に向けて敵対する者たちがそれぞれに動き出す。後半の大立ち回りはリアルに描かれ、主要人物はみな格好悪く死んで行く。甚衛門、槍の半兵衛はまともに切り合えずに又右衛門に斬られる。全ての謀略の核たる土井利勝も家康の墓参の帰り階段から転げ落ちたまま死んで行く。知略、剣戟の場面すべてすばらしい。傑作。大傑作。


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