読書日記

2002年07月30日(火) 野尻抱介『太陽の簒奪者』(早川書房2002/04/30)を読み終える。

 野尻抱介『太陽の簒奪者』(早川書房2002/04/30)を読み終える。
この重厚長大な小説がはやるご時世に僅か283頁で終わる壮大な物語。SFの歴史上伝統あるファースト・コンタクトものの新たな傑作の登場となった。
出た時にはコミック的な域を越えていないだろうと高をくくっていた。読み始めた今回も高校2年生の少女が主人公と分かってまず偏見が甦えった。
しかし、読み進むにつれてしっかり構築されたアイデアの世界に引き込まれた。
昔、クラークの『太陽系最後の日』に魅了された。
今の中高生はどういうふうに読むのだろうか。
元になった短編も読みたくなった。SFマガジン定期講読者はエッセイ以外あまり読んでいなかった。
最近SFから遠ざかっていた自分がこの作品を読む気になったのは本の雑誌8月号の鏡明氏の文章による。
残念だったのは読むのに3日間かかったこと。野暮用がはさまって一気に読めなかった。
昨日読み終えた『世界の終り、あるいは始まり』も一種のファースト・コンタクトものだった。自分がよく知っていると思っていた人物が実はそうではなかったために想像力を駆使して理解しようとする主人公は、『太陽の簒奪者』の白石亜紀とよく似ている。

ある人間を理解しようとして書くのが伝記である。
医者であり芥川賞受賞作家でもある南木佳士が農村医療のパイオニア若月俊一の半生を描いた『信州に上医あり(若月俊一と佐久病院)』(岩波新書1994/01/20)もそういう意味でファースト・コンタクトものといえるかもしれない。
もちろんこれはSFではない。しかし、不思議な巡り合わせがある種の人間にはあるのではないかと思わせてくれる点で共通する部分があるかもしれない。
この芥川賞作家の文章は平易で最後まで落ち着いて読むことができた。
個人的に最近注目の作家である。
もちろん野尻抱介も。

今日また入手してしまった本達はこの通りです。
徳田秋声『あらくれ』(新潮文庫)、後藤健生『サッカーの世紀』、矢口敦子『家族の行方』(創元推理文庫)、『江戸東京物語(下町編)』(新潮文庫)、鮎川哲也『殺人歌劇<第一幕>』『殺人歌劇<第二幕>』(青樹社)、歌野晶午『ROMMY(そして歌声が残った)』『正月十一日、鏡殺し』(講談社)、『大密室』(新潮文庫)、久世光彦『逃げ水半次無用帖』(文春文庫)


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