蝶はもう還って来ないから
土の中に、バイバイ。
増え続けた墓の場所を
僕等は次々に忘れていった。
蝶、蝉、クワガタ、カブトムシ。
僕等は次々に忘れていった。
夏が来るたび、僕等はあの頃を思い出すけど
風化されて、綺麗すぎて、
僕等はあの頃を思い出せない。
あの高い空を、届かない逃げ水を
蝉の悲鳴を、青いソーダアイスを
思い出すけど
思い出すけど
それらに抱いた感情をもう思い出せない。
夏が大好きだった。
寝ぼけ眼のラジオ体操、眩暈の中のプールも。
座敷の線香の匂いも、終わらない宿題さえも。
僕等は大好きだった。
田圃も、木陰も、下水管の蜘蛛の巣も、みんな。
僕等は大好きだった。
でもその「大好き」を
僕等はもう思い出せないんだ。
どうしてだろう。
夏が来るたび途方に暮れる。
どうしてだろう。
夏が来るたび、夏を嫌いになっていく自分が居る。
どうしてだろう。どうして―――――。
僕等のあの夏を返して。
お墓を作らなきゃ。
そして忘れなきゃ。
僕等の夏は、あまりにも美しすぎたから。
神様も気付かないほどに。
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